「さっき、あのケーキ屋に遥陽と七倉がいたな」




 気づいてたんだ。


 ゆっくりと立ち上がる矢崎。





「それで?」




 それで逃げたのか?


 矢崎は私のことを見て、そう尋ねた。




 私は静かに頷いたまま、顔を上げなかった。





「まだ……遥陽のことが好きなんだな」




 矢崎の苦しそうな声が、私の心に突き刺さる。



 目だけを上げると、予想とは裏腹に矢崎は平然としていた。





「でも、ゆっくりだけど俺のこと好きになってってるだろ?」




 ニッと明るい笑顔を私に向けた矢崎に、驚いた。



 矢崎は強い。心が強い。


 ポジティブで明るくて、私とは正反対。