「……あたしじゃ、ダメ…?」


波音に混じった透子の声は少しだけ震えていて、少しだけ寂しそうに聞こえた。



「……あたしは……ユキと栗原さんが出会う前から……ずっとずっと前からユキのこと見てた……。……ずっと……ユキのこと……好きだったんだよ……」


波音で聞こえない代わりに、透子の鼓動が振動で伝わる。


「……あたしが……栗原さんのこと…忘れさせてあげる……」


俺を抱きしめている透子の腕に力が入る。


波は優しく、砂浜の砂をさらっていく。


このイライラした気持ちをいつになったらさらってくれるんだろう。



今になって思い出すんだ。


優花の胸元にはもう、俺があげたネックレスがなかったことに。


もう……あんなに愛しい笑顔を見ることはないのかもしれない。


次に、優花が微笑みかけるのは俺なんかじゃなくて、別の男。


もう……優花ん中では俺なんか…本当にただの『兄ちゃん』なんだよな。







俺の胸に回された、少しだけ震えている透子の手を優しく……ゆっくり握りしめた。


その瞬間、波が大きく音を立て砂をさらっていった。