君との距離、2歩分。




前髪で隠れた小夏の目。


隙間からしか見えないけど……寝てる?


うん。確実に寝てる。



はー…あせったー…


バクバクとなる心臓を落ち着かせながら深呼吸した。


本当、寝言多いよね。


前も寝言で名前呼ばれた記憶あるんだけど。


夢にまでオレを出してくれるのは嬉しいけどね…。




.



オレは小夏の幸せそうな寝息を聞きながら、また小夏の隣に腰を下ろした。


すると、小夏の肩が揺れてオレの肩にかかる重み。



小夏の柔らかい髪がオレの左頬を優しくくすぐる。


…コイツの頭、脳みそ入ってんのか?と思ってしまうくらいの肩にのった小さな頭。



横目で確認した小夏の顔は、うっすらと微笑みを浮かべている。


その顔が、可愛くて。


指先でそっと触れた肌は白くて、柔らかい。



まるでこの空間が自分の部屋ではないんじゃないかと錯覚させる程の小夏の威力がすごいと思った。



―…でも、やべ。


こんな体勢だからか?


何か理性飛びそう……




.



少し首を曲げて、前髪のかかった小夏の顔を覗き込む。


……可愛い…////


でも、これ以上は犯罪になってくるから…我慢!


我慢、我慢……我慢?


―……我慢なんて、しなくてよくね?



これを縄張り作りだと思えばいいんだ。


万が一、変な男に奪われても小夏が気付かないようにオレが初めてになればいいんだから。


やり逃げっぽくて少し嫌だけど、次いつ会えるかわかんないし…―



近付ける顔。


距離を近付けるにつれて、オレは息を殺した。


大丈夫だと、自分に言い聞かせながら――…




.



「………ん、ん?」


薄暗い雰囲気で、開けた視界。


………あれ?


窓の外、もう星が出て…


外の街灯もついてる…



「………!?」


ぼーっとする頭を無理矢理、たたき起こして立ち上がった。


電気がついてないけど、七世の部屋だ……


あ、そうだ。


私…七世を待ってるうちに段々眠たくなってきて…壁にもたれて寝ちゃったんだ。



乱れた髪を手櫛で直して、ドアノブに手を掛けた。


生欠伸を噛み殺しながら出た部屋の外に……


「あ、起きた。」


「…七世。」


面倒くさそうに立ち上がった七世がいた。




.



「…な、何してんの?」


「―…何って…お前が起きんのを待ってたんだろーが。」


「……えっ////!?」


別に深い意味なんてないってわかってるのに、勝手に赤くなる顔。


私の心臓は、どうも七世に弱い。



「早く着替えないと制服シワになるだろ。」


そう言って、すたすたと部屋に入っていく七世。


「え、あ…ごめん…」


私の言葉が言い終わったと同時に閉められたドア。


…お…怒ってる?


私が勝手に部屋で寝たからかな?


……どうしよう……



――…ガチャ


あせる私の目の前で、何故かまた開いたドア。


その中から七世がひょこっと顔を出した。




.



―…な、何!?


まさか、お説教?


私は思わず身構える。



そんな私を見て、何故かフッと意地悪く笑った七世―…


「覗くなよ、ばか。」


「の…覗かないよ////!」


私の反応を見た七世は再びドアを閉めた。


……悔しい……


からかわれた…////



あの、意地悪な顔!


悔しいけど…かっこよかった……



あーもー////


惚れた弱みってやつだ。


七世のひとつひとつの行動に私の心臓はいちいち反応しちゃう。


これじゃ、心臓もたないよ!


どんなに七世に意地悪されても、七世のことを好きでいることをやめられないんだもん…




.



赤くなった顔と止まらない動悸を落ち着かせてから、家族のいるリビングへ行く。


何事もなかったかのようにリビングのドアを開けた私に―…


「小夏っ!!」


「え、な……?」


母親がいきなり飛び付いて来た。


その勢いに押されて上手く喋れずに変な声しか出ない。


そんな私を置いて、お母さんの話は進んでいく。



「小夏、お願い!ちょっとそこのコンビニでいろいろ買って来てほしいの!」


「えー…寒いし…」


「大丈夫!買うものは少しだけだし、お釣りはあげるから。」


そう言って無理矢理、メモとお金を渡された。


「は!?意味わかんな…」


「行ってらっしゃーい。ありがとねー」


「ちょっ…お母さ…」


私の言葉が言い終わらないうちに閉められた玄関のドア。


……超強引。


私は半ば強制的にコンビニに行かされた。




.



少しふて腐れらながらも、頼まれた通りにコンビニにへ行った私。


メモに書いてあったものを全部買ってコンビニを出た。


あー…重い。


いくら春だっていっても夜はまだまだ寒いし。


お釣りも300円くらいしか残らなかったし。


私、騙された?


そんなことを考えながらも北川家の玄関のドアを開けた。



「―…ね?いい考えでしょ?」


「えー…でも七世くんが可哀相じゃない?」


「あ、オレは……」


中から聞こえるみんなの会話。


話題の中心は七世みたい。


「―…七世くんが小夏と結婚してくれなかったら、小夏は一生独身になりそうなんだよー」


1番大きな声で意味不明なことを喋ってるのは、お酒が入って調子に乗った私のお父さん。


「七世に小夏ちゃんはもったいないだろー」


そう言ってるのは、同じくお酒の入った七世パパ。



…え、えっ!?


―……そーゆー話////!?




.



私は出るに出られず、玄関の前で立ち尽くしていた。


……何、勝手に決めてんのー!?


お父さんとお母さんのバカ!!


恥ずかしくなった私は静かに息を潜めて、存在を消した。


……本当はぶっちゃけ、嬉しいけど…っ!


でも私だけ嬉しくても意味ないもん…


私と同じで七世も嬉しいって思ってくれるとは限らないんだし。



―…でも、少しだけ。


私の心は七世の気持ちに期待してる。


『いいですよ』って頷いてくれるのを心のどこかで待ってる。



「……あの…オレ……」


「お父さん!七世くんにだって好きな子ぐらいいるんだから!押し付けるのはだめだよ。」


調子に乗るお父さんを怒るお母さんの声。


「…え、七世好きな子いるのー!?」


今度は七世ママの声が部屋に響いた。



「は////!?うるせぇよババア!!近所迷惑だっつーの!」


聞こえてきたのは、七世の上ずった声。


七世がこの声を出すのは照れてたり、緊張してるとき限定。


…見なくてもわかる。


七世は絶対、図星を突かれて真っ赤になってるんだ……




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君との距離、2歩分。

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