勿論、二人の間には笑顔があった。



 アルンとセシリアの結婚式は、本当にささやかなものだった。アルンは巨大な会社の社長なので、大々的に行なっていいものなのだが、セシリアが大々的に行なうことを拒んだのだ。

 本音としてアルンは、もっと大々的に行ないたかったのだが、今回はセシリアの意見を優先した。

 ホームパーティ風の結婚式。

 食事は、ビュッフェ方式。

 しかしまだ式がはじまっているわけではないので、参列者は料理に手を出さずに酒を味わう。

 だが、アルコールは下手すると危険な飲み物に変化する。何と一部の参加者が、泣き出したのだ。

「社長が……」

「ああ、社長が」

「嬉しい」

 余程今回の結婚式が嬉しいのか、四十代後半の男達が泣く。それに対して、周囲にいる仕事関係者が一斉に頷く。

 この日をどれだけ待ち望んだのか――

 それだけで、涙が溢れる。

「良かったですね」

「ああ、良かった」

 泣く大人達の姿に、ウィルが近寄る。そして、躊躇うことなく彼等に話し掛けるのだった。

 相手がウィルとわかった瞬間、彼等は本音を言っていく。そう、泣いていた人物は重役達だ。

「仕事が、捗りますね」

「勿論、そうだ」

「その……お聞きしていいでしょうか。兄貴って、そんなに信頼がないのですか? 心配で……」

 その質問に、重役達は一斉に笑い出す。そして彼等が言った言葉は、アルンを信頼しているという驚くべき内容だった。重役達の本音にウィルはどのように反応していいのか、困ってしまう。

 てっきり、アルンの信頼はボロボロだと思っていた。それは口々に「セシリアの方が……」と、言うものが多かったからだ。だが、よくよく考えればわからなくもない。