その日の夜中、由佳は遅くまで起きていた。

いつもなら先に寝ているのだが、今日は何となく起きていたい気分だった。


壁にかけてある時計が夜中の3時を回った頃、玄関の鍵が開く音がした。

コツコツ、と鳴り響くヒールの音と、香ってくる香水の匂い。


由佳はリビングを出て、玄関に向かった。



「…あれ、まだ起きてたの?」


冷たくそう言う礼子に、由佳はこくりと頷いた。


「早く寝なさいよ。」


そう言って礼子が由佳の横を通り過ぎた時、由佳は礼子に思い切り抱き着き、呟いた。



「ママ…。」



暫く時が止まった。

初めて抱き着く礼子の匂いは、香水と煙草の匂いに包まれていて、それはそれは世間一般の母親の匂いとはひどくかけ離れていたが、由佳にとっては不思議と心地の良い香りだった。


だが次の瞬間、礼子は思い切り由佳を突き放した。