辺りがすっかり暗くなった頃、由佳は自分を呼ぶ馴染みのある声に顔を上げた。


「…恭ちゃん。」

「由佳のママ、迎えにこれないから。ぼくのママが迎えにきたよ。」


そう言うのは、1つ年上の近所の男の子、恭平だ。
恭平は今年から近所の小学校に通っている。

恭平の母親と由佳の母親は昔から知り合いらしく、由佳はよく恭平の家にお世話になっていた。


「由佳、帰ろう。」

「…うん。」


本来礼子が言うべき言葉を、恭平は言う。


だけど由佳にとっては、それがすごく嬉しかった。


恭平は自分の気持ちを分かってくれる、唯一の存在だった。
まるで本当のお兄ちゃんのような、大切な存在だった。
恭平だけは、いつも優しい。
恭平だけは、ずっと由佳の味方だ。


恭平と由佳は手を繋ぎ合って帰った。


由佳はなんだかむずがゆいような、だけど少し嬉しい気分になった。