薫は驚いて目を丸くしていた。
「どうしたんだよ、急に。」
「そういうの、要らないの!優しさとか、気遣いとか、要らない…。」
「何でだよ。」
「要らないもんは要らないの!」
由佳は大きな声で叫んで俯いた。
「誰かと思ったら…あんただったの。」
前方から聞き覚えのある声がして、由佳は顔を上げた。
「珍しいわね、そんなおっきな声出して。近所迷惑よ。」
「お母さん…。」
そこにはいつも通りの派手な格好と派手なメイクに身を包み、煙草をふかす母親の姿があった。
きっと仕事に行くところなのだろう。
「っていうかどうしたの、その足。」
「……転んで骨折した。」
「ふーん。相変わらずどん臭いわね。んで、そこにいる子は?彼氏?」
礼子は煙草をふかしながら、顎で由佳の隣に居た薫を指して言った。
薫は礼子に向かって軽く会釈をした。