由佳が薫の存在を無視して横を通り過ぎた時、後ろから薫の声がする。


「おいおい、待っててやったって言うのに、無視して行くのか?」

「待ってなんて一言も言ってないでしょ!」

「可愛くねぇ奴だな。」

「うるさい!」


由佳はつい振り返って言い返してしまった自分を後悔した。


何でこんな奴なんかにムキになってるんだろ――…。


由佳はそれ以上は何も言い返すことなくさっさと歩き出した。


薫といるといつも調子を狂わされる。
無感情で、無頓着であることが自分のポリシーだったのに、薫の挑発にはいつも乗ってしまう。


由佳は悔しくなって、無言で松葉杖を動かして黙々と歩いた。


その隣を、薫は呑気な顔をしながらついて来る。

由佳は何も言うまい、と思ったが、ついに痺れを切らして隣を歩く薫に向かって言った。