「なんかクラスの女子たちが言ってたけど、林間学校で好きな人と一緒に夕日を見ると、両思いになれるらしいよ。」

薫がそう口を開いた。

「へぇ…。ずいぶんとおめでたい話だね。」

由佳は素っ気なく言った。

「俺は今日10人ぐらいの女子から誘われてたけど、お前のせいで約束をすっぽかす羽目になったな。また女子たちのお前に対するいじめが加速するだろうに。」

「それはそれは、申し訳なかったね。」

由佳が皮肉たっぷりにそう言うと、薫は面白そうに笑いながら言った。

「俺もそんなくだらねぇ話、信じないけど。」



由佳は暫く夕日をぼーっと眺めていた。
山の上から見る夕日はとても美しかった。

ふと隣を見ると、薫も夕日を眺めていた。

夕日に照らされた薫の顔はまるで芸術作品のようで、夕日に負けず劣らないほど綺麗だった。
由佳でさえこの時の薫はかっこいいと認めざるを得なかったぐらいだ。


由佳はふと、まだ助けてもらったお礼を言ってなかったことを思い出した。


いくら嫌いな奴でも、助けてもらったお礼はしないとな――…。



「…ねぇ。」


由佳は薫にそう呼びかけた。