「俺も、わざわざ皆が見ているところで自分から話しかけに行くつもりもなかった。自分の身を犠牲にしてまで面倒事に首を突っ込む趣味はない。」

「…でも今のあんたは、言ってることとやってることが矛盾してる気がするけど。あんたが居なくなったこと、学年の皆も先生たちも気付いてるでしょ。私を助けに行ったなんて知れたら、私はともかくあんたまで大嫌いな面倒事に巻き込まれる羽目になるんだよ?」


由佳の言葉に、薫はニヤリと笑った。
その挑発的な表情も、薫ファンの女子が見たら心臓が飛び出してしまうだろう。


「そうなんだよな。首を突っ込まないつもりだった。でも、なんか放っておけなかったんだよな。別に今回は、首を突っ込んでもいいかなって思えた。」


そう言って薫は、由佳に顔を近付けた。

あまりにも近くに接近してきた綺麗な顔に戸惑い、由佳は思わず顔を逸らした。


「…からかうのはやめて。迷惑。」


すると薫は面白そうに笑い声をあげ、「冗談だよ。」と言った。


「…雨、止んだな。」


薫は窓から差し込む光を見ながら、そう言った。
いつの間にか激しい雨音は聞こえなくなっていた。