「最初はただの暇つぶしのつもりだった。笠原由佳という不気味な人物が一体何を考えてるのか気になった。ただそれだけだ。」

「……。」

「だけど、お前はいつも俺の予想の遥か斜め上を行く。いつの間にかお前と話すことが楽しくなってきている俺がいた。お前は俺が期待していた以上に面白い奴だった。」

「……。」

「俺は”ケイ”として、お前とあのままの関係を続けるつもりだった。」

ここで薫は大きなため息をついて、雨で濡れた黒い髪を右手で掻き上げた。
その姿はとても美しく、薫のファンの女子が見たら倒れてしまいそうなほどだった。


「…だけど。お前に俺の存在がバレたのは俺の計算ミスだった。」

「……。」

「ケイとしての俺は、お前を必要としていた。だけど小野寺薫としての俺は、お前を必要としていなかった。お前を必要とすれば面倒になるからだ。」

「……。」

「でも小野寺薫としてでも、周りにバレなければいいと思った。だから俺はあの日、非常階段で話をしようとした。でもお前は話を理解するどころか、聞こうともしてくれなかった。まぁ期待はしてなかったけどな。」

「…当然でしょ。そんな都合のいい話。」

由佳は呟いた。