由佳がそんな薫のことを冷めた目で見ていると、薫と一瞬目が合う。


あの日以来、薫は由佳に何も言ってくることはなかった。

電話もメールも一切来ることはなかったし、話しかけられることも無かった。
全てが今まで通りで、思っていたよりも案外面倒なことにならずに済んだので由佳は内心ほっとしていた。


「何その格好。だっさ。」


そう言って由佳に悪態をついて来るのは遠藤奈津子だ。
彼女は露出の多い短いスカートや派手なトップスに身を包み、ばっちりと化粧をしていて、まるでファッション雑誌のモデルのようだ。
この格好で山に登るのだろうか、と由佳は内心疑問に思った。
一方由佳は、Tシャツにジーパンという何ともお洒落っ気のないシンプルな格好だ。


「あーあ、こんなに日差しが強いと焼けちゃうー。ねぇ薫~。」


そう言って猫なで声で薫のもとへと向かっていく奈津子の背中を見つめながら、由佳はふと疑問に思う。

不思議なことに、何も触れてこないところからして、薫が由佳と連絡を取っていたということは、奈津子や桐島の耳には入っていないようだった。
もしそれを知ったとしたら、2人が黙っているわけはない。


小野寺薫は、なんで2人に言わなかったんだろ――…。


由佳は少し考えて、きっと騙される自分を見て面白がっていただけなのだろうと思った。