「助けて…っ!小野寺薫…っ!」


自然と口からこぼれた名前に、由佳は自分でもハッとした。

近付く恭平の顔が止まった。
恭平の目付きが変わる。


「…今、あいつの名前を呼んだね。」


吐息がかかるほどの距離で、恭平は由佳の目を見据えた。
その眼差しは鋭く、いつもの余裕そうな笑みはどこにもない。


「僕の前でそいつの名前を呼ばないでくれるかな。」

「……。」

「あいつが好きなの?」

「…違う。」

「あいつは来ないよ。きっと由佳には幻滅してるだろうしね。」

「……。」

「お友達の女の子も、由佳のことを恨んでるだろうな。由佳が僕との関係を言わなかったせいだ。」

「……。」

「由佳にはもう誰も味方なんて居ない。」

「……。」

「由佳は誰からも必要とされていないんだよ。」

「……そんなこと分かってる。」


由佳は唇を噛み締めた。