「…原さん。笠原さん!」


隣で自分を呼ぶ声がして、由佳は現実に引き戻された。

由佳が右を向くと、1人の男子が由佳の名前を呼んでいる。


彼は確か、杉崎葵。
由佳の隣の席に座る男子だ。

大きな目、赤茶色に染められた髪、少し低めの身長。
結構可愛らしい顔をしている上に、人懐っこい性格だからか、女子から人気も結構高い。


「何?」

「俺、教科書忘れたの!見せてくんない?」


「わりぃ!」と申し訳なさそうな顔をしてそう言う葵に、由佳は頷くしかなかった。


だけどクラスの人からあまり良く思われていないであろう自分に、自ら進んで声をかけてくるなんて変わった人だな、と由佳は思った。