その日の授業中、由佳は奈津子の言葉をふと思い出した。
―― あの人、結構ヤバい人だから。
恭平の黒い噂は、校内でも有名だった。
噂などさらさら興味のない由佳の耳にも入ってきたぐらいなのだから、相当なのだろう。
だけど由佳は信じなかった。
いくら彼のことを恨んでいようと、由佳は恭平がそんな人間には思えなかった。
確かに恭平は昔に比べて変わってしまった。
見た目も、性格も、由佳が好きだった頃の恭平の面影はどこにもなかった。
だが由佳は恭平はそんなに悪い人ではない、とどこかで信じていた。
それはきっと、昔の恭平を知っているからだ。
あの頃の恭平は、とても優しく、正義感も強い真面目な少年だった。
あの時の恭平の姿には、おそらく偽りなどなかった。