夜。
私は飼い犬のリノの散歩をしていた。
リノはいつもと同じように、鼻をひくつかせながら私の前を行く。
年、いくつなんだろう。
拾った犬だから、わかんないんだよな。
なんてぼんやり思っていると。
「ワン、ワン!」
「へ?きゃあっ」
突然リノが走りだし、私は驚いて見失ってしまう。
「リノ!」
走り去ったリノの背中を追って、私は小さな公園に入った。
街灯もなく、生い茂る草木に囲まれ、周りよりも暗く感じる。
ここ、小さい頃によく来た公園だ。
今ではもっと広い公園が近くに作られて誰も使わなくなったんだろう。
懐かしいな・・・よく遅くまで遊んで怒られたっけ。
「ワン!」
「!リノ?」
私はリノの声がした方を振り向き、公園のさらに奥へ。
そして、言葉を失った。
「ふっ、あはは、何だよお前」
金色。
木の葉の隙間から差す月光を浴びて輝く金色の髪。
「首輪してんじゃん。逃げたのか?」
地べたに座り、リノと戯れながら笑う男の子。
私はその美しさに見とれ、息を飲む。
柔らかそうな、少し長めの金髪。
空色の目。
きめの細かい白い肌や高い鼻。
外国人・・・?にしては、日本語が上手な気がする。
どこか大人っぽくて、年上に見える。
すごく、綺麗なひと・・・
「ワン!」
「わ」
「え」
リノが私を見つけて尻尾を振る。
私は驚いて声をあげ、振り向いた彼と目が合う。
「あ・・・っと」
「・・・」
見とれてしまったことを咎めるような彼の表情に、私はたじろぐ。
「あの・・・」
「・・・あんたんちの犬?」
「は、はい」
低いけど透き通った声。
固い表情。
なんか、ちょっと怖い・・・。
「ごめんなさい。リノ、おいで」
もう遅いし、邪魔しちゃったし・・・帰ろう。
「別に謝らなくていい」
男の子は立ち上がり、砂を払って、こちらに歩み寄ってきた。
「・・・あの?」
「家まで送る」
「は?」
ど、どういう・・・?
「こんな時間に女一人で行かせられるか」
「え」
「行くぞ」
男の子は私の少し前を歩き出す。
夜道の月光にきらめく髪を見ながら歩いていると、
「何だよ」
男の子が振り向いて、立ち止まった。
「ごめんなさい・・・綺麗な髪だなと思って」
「は・・・」
男の子が驚いたように目を丸くする。
「・・・」
男の子はすぐにもとの表情に戻り、また前を歩き出した。
「ま、待って」
・・・って、待たれる必要ないか!
自分の失言に頬が熱くなり、私は顔を俯けた。
見ず知らずの人に興味を持つなんて、いつもなら普通しないのに。
なんか私・・・変だ。
「・・・」
男の子の足音が止んだので、おそるおそる顔を上げると・・・
「何だよ。早く行くぞ」
彼は立ち止まり、先程より柔らかい表情で、私を待っていた。
怒るかと思ったのに・・・。
意外と、優しいんだ。
「・・・ふふ」
「?」
「何でもないです。ありがとう」
込み上げた笑いを抑えられず、男の子に怪訝な顔をされてしまう。
私はなぜか、彼に親しみを覚えていた。