君と歩く未知

　「お母さんは、頭から血を流して気絶しちゃって…アタシは驚いて…すっごくびっくりして、お母さんが死んでしまうんじゃなかって怖くなって、お父さんにこう言ったの…」
アタシは、カズくんの目を強く見て言った。
「『人殺し』『あんたなんて親じゃない』『二度とアタシの前に現れないで』って…」
アタシはあの時の記憶がよみがえって、呆然とした。
気が付いたら、涙がとめどなく流れていて、もう止められなかった。
カズくんはアタシの涙を、手の甲でそっと拭ってくれた。
「…そしたらさ、お父さんはアタシに謝って…それからすぐ、家から出て行って…マンションの屋上から…飛び降りちゃった…」
そこまで話し終えると、カズくんはアタシをそっと抱き寄せた。
カズくんは何も言わず、アタシのことを夏の太陽が照りつける暑い中ずっと抱きしめてくれていた。
「…お母さんは、死ななかったんだよ…。なのに…お父さんは自分を人殺しだと思って死んじゃった…。アタシ、ずっとずっと後悔していたの…お父さんにあんな言葉を浴びせなければ良かったって…。お父さんが死んでしまったのはアタシのせいなの、本当の人殺しはお父さんなんかじゃなくって…アタシなんだよ……。だから、アタシは…アタシみたいな人殺しが幸せになっちゃいけないって思って…自分の感情を殺して生きてきたの。…この一年、たった一年間だけど、泣きもせず笑いもせず…苦しかった…」
カズくんに抱かれたままアタシは泣きじゃくりながら言った。
カズくんは、そんなアタシの耳元で言った。
「大丈夫、弥生は人殺しなんかじゃないよ。…弥生は、もう十分、自分の言った言葉を後悔してきたじゃないか。だから、人殺しなんかじゃない」
カズくんに言われてアタシはカズくんの胸の中で頷いた。
カズくんはそっとアタシを自分の胸から離して、アタシの目を見つめて言った。
「…弥生は十分苦しんだんだよ。だから、次は明るく生きなくちゃ。弥生が寂しい人生を送ってるって知ったら、弥生のお父さん、きっと悲しむから。な？…弥生はきっとオレが幸せにするよ…もう心配しなくていいよ」
アタシは言った。
「ありがとう…」