アタシとカズくんはすごく早くに学校に着いてしまった。
暇つぶしに向かった場所と言えば、やっぱり美術室。
ここはアタシとカズくんが出会った場所。
かけがえのない楽しい日々を過ごした場所。
そして…この小さな命を授かった場所。
 「ここで色んなことがあったよね!覚えてる?アタシとカズくんが出会った日のこと」
アタシは無邪気にカズくんに尋ねた。
「うん…それにしてもあの頃の弥生って最悪だったなー、いっつもブスっとしてさ」
アタシはケラケラ笑った。
「そんなことまで覚えてなくっていいよ!」
カズくんはアタシの頭をくしゃくしゃっとかき混ぜた。
そしてアタシの肩を抱いたまま言った。
「何か、懐かしいな。ほんのちょっと前のことなのにな」
「そうだね…もう大昔のことみたいだもん…」
そしてアタシたちは机の上に並んで座った。
アタシはカズくんに膝枕をしてもらった。
「この小さいお腹の中に、もっと小さい赤ちゃんがいるんだな」
そう言ってカズくんはアタシのお腹を優しく撫でた。
「不思議な感じだね…」
アタシもカズくんの手の上に自分の手を重ねてお腹を撫でた。
カズくんは美術室をグルッと見渡しながらつぶやいた。
「…もしかしたら、美術室に神様がいるんじゃねぇか?オレらって、この教室がなかったら出会ってもなかったんだからさ」
いつもなら、そんな夢みたいなことを言わないカズくんの口から、そんな幻想的な世界の言葉が出てきて驚いた。
アタシはニッコリ笑って言った。
「そうかもね!…アタシたちのこと応援してくれてるんだよ、きっと」
カズくんもアタシと同じようにニッコリ笑った。
アタシはなんだか嬉しくなってつぶやいた。
「ねぇ、神様。アタシとカズくんの赤ちゃん、無事生まれるように見守ってください」
そう言ってアタシは目を閉じて祈った。
カズくんも言った。
「オレが弥生と赤ちゃんを幸せにするので、無事に生まれるように見守ってください」
そのままアタシたちは目を閉じた。
昨日の寝不足が祟ったのか、それとも安心したせいか、アタシはそのまま深い眠りに落ちてしまった。