「おい!弥生!」
カズくんはアタシより足が速く、あっさりと追いつかれてしまった。
カズくんの大きな手で掴まれたあたしの腕には、恐ろしさで悪寒が走った。
カズくんは真っ直ぐにアタシを見つめて言った。
「弥生、どうしたんだよ?何があったんだよ?」
アタシは全身を震わせながら小さな声で言った。
「…ヤ、離して…」
アタシの声が届いているはずなのにカズくんはアタシを離そうとしない。
「なぁ、弥生…」
カズくんはアタシを抱き締めた。
…今日の朝まではこうされるのを望んでいたのに、アタシの体はカズくんさえ受け付けない。
もう触れないで…
アタシはそっとカズくんの手を解いて自分の体とカズくんの体を離した。
そしてアタシはゆっくり階段を上り始めた。
カズくんはもう追っては来なかった。
アタシの目からは涙がボロボロと溢れた。
「…弥生!どうしたっていうんだよ!?オレわけわかんねーんだけど…オレのこと、嫌いになったか?」
カズくんの叫ぶ声が聞こえたけど、アタシは振り返らずに歩き続けた。
 カズくんにどうしてあげれば良いのか、良くわからなかった。
ただ、もどかしくて、悲しくて、切なくて…
でも、確かにわかることが一つだけあった。
カズくんを嫌いになったわけじゃないってこと。
それだけはちゃんと伝えなきゃって思ったけど、今はその勇気さえなかった。
ごめんね…何度言っても足りない。
ごめんね、カズくん。