その後、あの日の出来事について振れることは無かった。
それが一番いい事のように思えた。
お互いに口にしない事で、私達は2人の間の距離感を保つことができる。
私は相変わらず陸の部屋に通い、陸との数時間を我が儘に過ごした。
時々駅で見かける元彼の姿も、見て見ぬ振りをしてやり過ごせたし、彼に対しての優しさなど、もう一ミリも残ってはいなかった。
気まぐれに少しだけ遠回りな道を通ってみたり。
彼を回避する方法なら、幾らでもあった。
とにかく私は、私自身の事で精一杯だったのだ。
元彼に費やす余裕など少しも持ち合わせてはいない。