「朝ご飯、いらないの?」

「今日は遅くなるの?」

「晩ご飯、何がいいのか考えておいてね」

 ……だ。お母さんが言おうとしていた言葉は。一語一句、余すことなく覚えてしまっている。

 見慣れてしまった登校する際の道。人。人の会話、動き。自転車や車の動き。雲の動き。空気のにおい……すべてがすべて、脳内にインプットされてしまっている。

 だからこの後、道端で偶然に出会ったイジメっ子の佐藤と田中、そして鈴木の3人の男子生徒が僕に話し掛けてくること自体も知っている。


「春夏秋冬(ひととせ)~」


 ……ほらね。

 そうだなぁ、「なに?」と振り返ったら振り返ったで殴られるし、無視をしたらしたで蹴られるし……。

 逃げたら追い掛けられて最終的に痛い目に遭うし、前の六月一日で隠し持っていたナイフで佐藤を刺し殺したら警察沙汰になったし……。

 まあ、どっちにしても、何にしても、僕にとって特別いいことなんてないんだよね。

 だったら今日は、隠し持っていた剃刀で自分の手首を切ってやろうか。どんな反応をするのだろう?

 僕の名字の呼ぶ声を聴いて振り返ると、僕を囲むように並ぶ3人。

 最初はイジメが怖くて、ビクビクとしていた僕だけど、66回目の六月一日の今は……ただただどうでもいい。

 毎回毎回同じことを繰り返すだけの、哀れな奴らにしか見えなくなってしまった。