「大丈夫。夢というものは、時に残酷であり、時には自分の願望を叶えてくれます。
怖い夢を見るというのは人間が成長する過程で必要不可欠なものです。」
「不思議だな。ヒナタに慰められるなんて。
それと、もう敬語はやめてくれない?多分俺より年上だろ?
それと、『アナタ』も。俺にも名前あるからさ。」
「わかりました。これからは”タメ口”で話します。」
彼女は暫く黙って何かを思い出すように言った。

「それ、私が最初に言ったんだよね。」
「何を?」
「うん、アナタって呼ばないでって。」
「そうだよ。」
「アナタもアナタって呼ばれると嫌?」
「いや、その、、、最初はケンちゃんて呼んでただろ?」
「ケンちゃんと呼んだら、すごく不快そうな顔をしてた。」
「そうかな、、、、。」
「どうして?」
「いいよ。ケンちゃんで。拒む理由なんて何もない。」
「言いたくないのね。いずれ話せる時が来るといいね。
、、、、、、おやすみ。」

ヒナタはそう言うと、またソファーに同じ様に潜り込んで、目を閉じた。

「明日、渋谷に洋服でも買いに行く?そのワンピしかないんじゃ困るだろ?」
「困りはしないけど、不衛生だよね。」
ヒナタは目を閉じたまま答えた。

なんだかヒナタの『タメ口』が少しおかしくて、その前に見ていた夢のことは、忘れてしまえた。

俺たちは次の日、朝から渋谷に出掛けた。
ヒナタがうちに来てからは渋谷にもあまり行っていなかった。
別にいつだって、何か目的があって渋谷にいるわけでもなかった。
ヒナタは朝から少し嬉しそうだった。
やっぱりもっと早く洋服を買ってやれば良かったなと思った。

男は、女が何をして欲しいのか言われなければよく分からない鈍感な生き物だ。
そして女は、男が女心を理解していないことをよく分かっていない鈍感な生き物だ。