『ケンちゃん、ケンちゃんはどのお花が好き?』

『お花?僕チューリップが好き!ママは?』

『ママはね、タンポポが好きよ。』

『どうして?』

『タンポポってさ、あんなに小さくて可愛い花なのに、どんなに土が無いコンクリートの隙間でも咲いてるでしょ?
すごく強くて一生懸命生きてるんだよね。
ママは、タンポポみたいな人になりたいな。』

『僕も!僕もタンポポみたいに強くてたくましい人になるよ!ママと一緒に。』

目が覚めると、まだ夜中の3時だった。
どうしてこんな夢を見たんだろう。
たいして暑くはなかったが、俺のTシャツはびしょびしょになっていた。

あれはいつだったか、もう母さんの顔さえうまく思い出せなかったはずなのに、まだこんなことを覚えていたなんて。

あれは確か、幼稚園の帰り道だっただろうか。
母さんはいつも仕事で俺は一人で園バスから家まで歩いて帰っていて、その日だけなぜか園バスを降りると母さんが笑顔で立っていて、
『ケンちゃん一緒に帰ろうか。』
と手をつないでくれたんだ。
その手が温かくて大きくて、俺はすごく嬉しかった。

また眠りにつこうとしたが、うまく寝付けなかった。
キッチンに水を飲みに行くと、カーテンが開いていて月明かりが差し込んでいた。
ヒナタはまた猫みたいに丸まっていた。
光が当たって髪がキラキラ光って、肌は透き通って見えた。
まるでガラス細工の人形のようだった。

「どうしたんですか?」
「あ、起こしちゃった?」
「いえ、起きていましたから。」
「そうなの?もう3時だけど」
「うなされていました。」
「どんな夢見てたの?」
「いえ、アナタが。」
「あぁ、うん、、、。」
「どんな夢見てたの?」
「言いたくないよ。」