「タンポポって花屋で売ってないんだって。雑草だから」

「タンポポ?」
俺はヒナタの手に持っているチューリップを眺めた。

「どうしてチューリップ買ったの?」

「え? ケンちゃん好きだよね?」

「俺、ヒナタにチューリップが好きだなんて言ったことないよ」

「そうだったっけ? でも好きでしょ?」

「なんで?誰から聞いたの?」

俺はヒナタの肩を掴んだ。思わず力が入ってしまった。
ヒナタが痛みで顔をゆがませたので、とっさに手を離した。

「多分お父さんからだと思う」

「そんかワケないだろ!」
今度は力いっぱい怒鳴っていた。

俺が花を好きだなんて言えてたのは、幼稚園の頃だ。
その後の俺の人生に彩りなんてものは何一つ無かった。

「わかんない。
お父さんが死んだ日のことはよく覚えてなくて、、、。
でもケンちゃんのことはお父さんがよく知ってたから、、、」

やっぱり、ヒナタの『お父さん』は単なる知り合いなんかじゃない。
俺と母さんと深い関係にあった人だ。

そうじゃなければ、俺の好きな花や母さんの好きな花をヒナタが知っているワケがない。
母さんの『彼氏』だった人ということか。あるいはもしかして、、、、。

「、、、、君のお父さんてどんな人?」
本当は聞くのが怖かった。

「お父さんは、優しい人だよ。
お父さんはすごく頭が良くて、ヒナタにいつもいろんなコトを教えてくれた。
タンポポみたいな人だと思ってた」

「、、、君のお母さんは?」

「お母さんはいないよ、、、、。生まれた時からいなかった」
聞き返そうと思った瞬間後ろから声がした。

「おい! ケンジー。ケンジじゃねーかよ」

声のした方に振り返ると、それは自転車に乗って手を振っているショウマだった。
嫌なところで、鉢合わせしちまったと思った。