日曜日にお母さんの『彼氏』が風邪をひいて、お見舞いに行ってしまったことを思い出した。

俺の目からはまた涙がぼろぼろと出てきた。

結局、約束なんか守られないじゃないか。
なんだかもう全てがどうでも良かった。

全部消えて無くなればいいんだ。
どうして母さんは僕なんか産んだんだ。
どうして僕はいつも待っていなければいけないんだ。
どうしてうちにはお父さんがいないんだ。

気づくと俺は玄関から花火を持ってきていた。
机の上にはタバコの灰皿とライターが置いてあった。

何度かライターをつけては消し、消してはつけてみた。

『これを花火につけたら、どうなるかな。
火事になるのかな。
火事になったら、母さんも母さんの彼氏も僕もみんな死んじゃうのかな』
などと考えていた。

俺は一体何時間そうやっていたんだろう。

新聞には、午前1時に出火と書いてあった。

ブランケットの中に花火を押し込んで、ライターの火を着けた。
火は驚くほど素早く燃え広がって、すぐに物凄い煙が立ち込めた。
もう涙は出ていなかった。

お気に入りの消防車も、火を消し止めることもできず、ただどろどろと溶けていった。

母さんたちは寝ているようだった。
苦しくて暑くて激しくせき込んだけど、体を丸めて我慢した。
火が天井を覆った時だった。襖が開いて母さんが飛び出してきた。

『ケンちゃん、大丈夫?ケンちゃん早く逃げなさい。』