夕飯を食べてから、俺はうとうとしてしまい、そのまま眠ってしまった。
起きてみると母さんの姿はなかった。
多分奥の部屋だと思った。
その日は俺が寝ていたからか、音楽はかかっていなかった。
奥の部屋から、くちゃくちゃと嫌な音がしていた。

俺はスイカが食べたくて食べたくて、母さんを呼びに、とうとう襖を開けてしまった。

先に約束を守らなかったのはお母さんの方だ。

襖の奥には、俺が見たこともない母さんの姿があった。
母さんが裸で腰をかがめ、男の股間に顔をうずめていたのだ。
俺はただびっくりして、その場に立ち尽くしていた。
母さんはすぐに俺に気づき、悲鳴をあげた。

『何してるの?お母さんが開けるまで開けちゃダメって言ったでしょ!』

母さんの手のひらが大きく振りかぶって、俺の頬をはたいていた。
まるで顔から血が溢れ出したかのごとく、じんじんと痛み、驚きと恐怖で涙がぼろぼろとこぼれおちた。

『僕はお母さんの何。そこで彼氏といつも何をしてるの。』

そう心の中で叫んだが、うまく声にはならなかった。

僕の大好きだったお母さん、
優しくてキレイなお母さん、
スイカを食べようと約束してくれたお母さん。
僕のお母さんはもうどこにもいなかった。

俺は襖を閉めると、母さんがかけてくれたであろうブランケットに顔をうずめて泣いた。

母さんはいつの間にかパジャマに着替えて、俺のそばに座った。

『ケンちゃん、ごめんね。
お母さんが悪かった。
ただちょっとびっくりして、叩いちゃった。ごめんね』

母さんはふわっと俺を包むように抱きしめた。

『汚い手で触るな! お前なんかもうお母さんじゃない!一人にしてよ!』
『わかった。明日スイカ食べようね。約束。』

母さんは、奥の部屋に戻っていった。

どうせ約束なんか守らないくせに!!
母さんなんていなくなればいい。

守られない約束を待ちわびるのは、もうたくさんだ。

顔をあげると、玄関には先週買った花火が目に入った。

『ケンちゃん、今度の日曜日、二人で花火しようか?』
『やったぁ!』