幼かった俺は、それが一体どんな行為なのか分からなくても、時々聞こえてくるかすかな母親の声に歓喜と興奮を感じることができ、俺の孤独感はより一層高まり、しだいに目の前の消防車にさえ興味を抱かなくなっていった。

襖からは、『約束』という重い契約を受けて、開けてはいけないオーラが漂い、まるで自分の家が自分のうちではなく、魔女の要塞に一人紛れ込んでしまったかのようだった。

この時間が早く終わることをひたすら願いぐるぐると壊れかけた消防車を回し続けた。

苦痛だった。

仲間外れにされた寂しさと母親を取られたという嫉妬は、簡単に母親に対する憎しみに変わった。
俺は、愛情と憎悪とのはざまで、
『母さんがいなくなれば、僕は幸せになれる』
と強く思うようになった。

強い愛情は、見返りが得られない時、いとも簡単に憎悪に変わる。
そして憎悪は、いとも簡単に殺意に変わるのだ。

子供は純粋であるが故に、残酷で本能のままに生きている。
子供には殺意がないなどというのは大人の幻想でしかない。
子供にとって『殺す』ということは、ありんこも人間も大して変わらない。

そんな風に俺は母さんを殺した。


7才の時のことだ。
今日のように蒸し暑い夏の日だった。
セミの声がうるさいくらいに聞こえていた。

俺はおうちで一人お留守番をさせられていた。
母さんと『彼氏』は、大きなスイカを持って帰ってきた。

母さんは、夏らしく白いワンピースに麦わら帽子を被っていて、流れ落ちる汗を拭いながら、
『ただいま、ケンちゃん。スイカ買ってきたよ』
と満面の笑顔で言った。

『スイカ食べたい!』
『うん。夜ご飯のあと食べようね』
『イヤだ!今食べたい!』
『約束。ご飯のあと一緒に食べよう。約束しよ』
『、、、わかった。約束ね。』

その約束は守られることはなかった。