今日もバカみたいに空には雲一つない。

俺はいつもの場所に座りタバコをふかしている。
白い煙が真っ青な空に白い弧を描く。
真っ白なノートに方程式を埋めるように。

俺にはもう関係ないか。入ったばかりの高校はすでに休みがちでほとんど行っちゃいない。

いつもの渋谷、いつもの人混み、いつもの交差点、そしていつもの無関心。俺は横断歩道の前にある、このビルの階段に座って1日をぶらぶらと過ごすのが最近の日課だ。

バカみたいに騒ぎたてながら歩いてくる女子高生も、手にジェラルミンケースを持って急いでいるサラリーマンも、俺を特別視なんてしない。

制服を着てこんな時間にタバコをふかしてる俺に注意をしてくるヤツなんかいない。
それは無関心という悪。

みんな俺と同罪で、みんな俺と同等だ。みんな孤独を抱えてる。
俺たちはそれぞれがたった一人で、特別な人なんて誰もいないんだ。

ふと見上げると横断歩道の向こうに立ってる少女と目があった。
白いワンピースを着た綺麗な子だった。
まるで彼女の周りだけ時間が止まっているかのようだった。髪が長くて、目が大きくて透き通っていて、肌は病弱なほど白かった。

俺は彼女をもっと近くで見てみたいという衝動に掻き立てられ、立ち上がった。
信号は青から赤に変わった。
彼女は信号を渡らなかった。こんな無関心な世界の中で、彼女は俺を特別視している。
俺は不思議な感覚に包まれて、彼女と見つめ合っていた。

信号がまた赤から青に変わった。
馬がゲートから弾き出されるように、みんながどっと歩き出す。
彼女はまだ立ったままだった。俺は一歩を踏み出した。そして彼女も一歩を踏み出していた。

「ケンちゃん、ジャンケンしようか?」

すれ違うとき、彼女は耳元でそう囁いた。
俺は、驚きのあまり、振り返って彼女の手を掴んでいた。