────どれほどの時間そうしていたんだろう。


気づけば外は真っ暗で。


部屋の中も真っ暗で。


外の街灯がわたしたちとは裏腹に騒がしく輝いている。


「…ありがと、澄乃」


「ううん」


ゆっくりと離れてわたしたちはお互いに俯く。


「スッキリした」


「よかった」


「もう、過去に縛られるのはやめる。
引きずってるのもやめる。」


「よし!今日は颯佑が一歩踏み出せたってことで料理頑張っちゃおうかな」


「待って」


わたしが立ち上がるとわたしを見上げて腕を掴んだ。


まだ潤んでいる瞳でまっすぐ見つめられる。


「なに……?」


「…まず、父さんのとこにいこう」


「えっ?」


「このまま、破棄にされるのは嫌だ」


「なにを?」


「結婚の話だよ」


どんな心変わりがこの数時間であったの?


わたしはただ唖然としてしまう。


「破棄をなしにするのは言われてからすぐに思ったよ。でも……澄乃は破棄でいいのかもしれないって思った」


「…うん」


「澄乃がどう思っていようと僕のわがままを貫くことにした」


「わがまま…」


わたしもそうしたいって思ってたよ。


全然、伝わらないね。


「わたしも、破棄は嫌だって思ってたよ」


そう言えたらいいのに。


やっと、一歩踏み出せた彼には何も言えない。


「だから、行こう。一緒に」


今までの彼とは違うように立ち上がってわたしを引っ張っていく。