声を我慢するように泣く颯佑。
「我慢しないで思いっきり泣きな」
30歳にもなろうという人。
でも背負っているものは30歳であろうが重いもので。
人の命、恋愛、政略結婚。
彼はちいさな子どものように泣き始めた。
わたしはそれをただ抱きしめて受け止めることしかできない。
もし、寿美乃さんならどうしていたんだろう?
きっと、一緒に頑張ってきてたはず。
わたしは何も知らないで…。
颯佑の中の負担を大きくしてしまったんだ。
「ごめんね、颯佑……」
抱き合っていても聞こえるか聞こえないかの声でそうつぶやいた。
わたし、失格だよ。
未来の妻としても、あなたに対する片想いをしているひとりの女としても。
「っ……」
わたしも涙を止められずにはいられなかった。