成海は、黙って聞いていた。
シュウの心はもう決まってしまったのか―…

「その後ね、唯がシュウって呼ぶのが耐えられなくて…シュウが唯に話しかけるのも嫌で…」
麻衣子は涙を拭いた。





だから、あの時麻衣子は宿題を忘れてたのね…
本当の事を話すべきなのか、成海は苦悶した。




しかし、ここで嘘をつくことだけはどうしてもしてはいけないことのように思えていた。
麻衣子を傷つけたくは無いけれど、嘘は、嘘はつけない。



「麻衣子、あの…あのね。シュウは…」
「言わなくても、」
成海の言葉を麻衣子が遮った。
「言わなくても、分かるよ。シュウはきっと唯を好きになる。この前も…キャンプの話をシュウにしたとき…シュウ、唯は来るか…って…きいて…きた…」

成海は空の遠くを見つめた。空は淀み、分厚い雲を垂れてはいるけれど、その雲の隙間からは
幾つも光が差し込んでいた。


「わかってはいるのに…でもね、あたし、まだ唯には上手く接せない。唯が…居なかったら、きっとシュウの彼女になるのはあたしだった。」



それが、どういう意味なのか、成海に分かるのはもう少し先のことである。











「麻衣子…成海…こんなとこに…」
実花は、ほんの少しだけ息切れをしていた。