翌日。
麻衣子は唯にも実花にも会いたくは無かった。だから、始業時刻ぎりぎりに教室に入り、3時間目と4時間目は保健室で休んでいた。


「麻衣子、元気ないな…大丈夫かな…」
独り言のように実花が呟いた言葉がどうしてか唯の心に重く重く圧(の)し掛かった。


「実花…話したいことがあるの。お昼ご飯一緒に食べようね。」
「うん。」
しかし、その表情にはいつもの屈託の無い笑顔とは裏腹に、唯にも判るほどの戸惑いの色が見え隠れしていた。


(あたしの知らないところで…なにが起こっているのかな…?誰も教えてくれないなんて…一年生の頃からずっと一緒に居たのに…初めて。)
根拠は無い。心当たりも無い。だがしかし、何処からともなく押し寄せてくるこの不安の波は一体何なのだろう。

湿気の残る重々しい空気に、思わず唯は両手で顔を覆った。



「話って?」
先に口を開いたのは実花のほうであった。
「あ、うん。」
口に入れた卵焼きをのどの奥に無理やり押し込むと、一息ついて唯は語りだした。

「やっぱりね、わたしシュウのこと気になるよ。」

「知ってる。」
「え?」

予想に反する実花の言葉に、きょとんとする。
「唯、いっつも浅倉君のこと見てる。体育の時も、休み時間も。」
自分ではそんなつもりは無かった。
無意識、というのはある意味恐ろしいものである。
そして、それに気づいていた実花も相当凄いと思った。

まだ驚いている表情の唯を横目に実花は続けた。
「でもね、唯。…本当はこんなこと言うつもりは無かったんだけど…麻衣子…麻衣子が元気ないのは―」


そう言いかけて、実花は唇を強く噛んで俯いた。
「なに?麻衣子がどうしたの?」

「ごめん、唯、私行かなきゃいけないところがあるの。」
言うや否や、急いでお弁当を鞄に戻し、足早に教室を去っていった。

「実花…?」



急に、一人になっ感覚が生々しいほどに唯を襲った。
「まさか…麻衣子…麻衣子も…」
もうそれ以上お弁当を食べる気もしなかった。