「すごいねー。記憶力良ーい。」
「すごいもなにも、」
成海は苦笑した。
「あんなにずっと麻衣子からシュウの思い出話聞かされてちゃ、記憶に残って当然。」
「そっか。」
麻衣子は声を出して笑う。


「初めてね、バレンタインのチョコレートあげた相手も、シュウだったの。」
天真爛漫、女の子の代名詞。
そんなキャッチフレーズが似合いそうな麻衣子は、表通りに視線を移して言った。


「何頼む?」
「あたし、苺パフェ。なるは?」
「私はカフェラテだけでいーや。」
成海が手を挙げると、すぐに定員がこちらへ歩いてきた。



「あたし。」
一瞬、麻衣子の表情が曇ったように見えた。
「まだ、シュウのこと好きみたい。」
さりげなく、そしてあまりにも小さな声で麻衣子が呟いた。
なんとなく、わかっていた。




「麻衣子もすごいよね。」
そんなことを口にするつもりはなかったのに、なぜか平凡な言葉しか浮かんでこなかった。
「どうして?」
案の定の答えが返ってくる。
「一途だもん。」
「一途じゃぁ、ないよ。」
「でも、あの時の約束、まだ守ってるわけでしょう?」
苺を口に運ぼうとした手を止め、麻衣子は成海の瞳を見つめた。


「約束なんて、初めから無かったようなものだし。あの時、まだ小学三年生だよ?幼稚園児がおままごとしてるのと、おんなじ。」
そうしてまた、麻衣子は視線を外した。

行き場を無くした苺だけが、グラスの上に独りぼっちだった。


「だけど、シュウはまだ麻衣子のこと好きかもよ?」



こんなときに、誰もが言うお決まりの台詞。
そんなに重い気持ちで言ったのではなかったのに。
「まさか。そんなことあるわけない。」
麻衣子の突き放す様な返答は、暫く成海の心に突き刺さって抜けなかった。




「ね、ちょっと悪いんだけど、英語の宿題コピーさせてね。」
「かまわないけど…」
とは言ったものの、落ち度のない麻衣子が忘れ物をするなんて、正直なところはかなり意外であった。