また月日が過ぎ、白い息が出る冬になった。毎日平和な日々を過ごしていた。
眠い午後の授業が終わり、掃除時間になった。寒いとゴネる真菜を教室から引っ張り出し、掃除場所に向かった。掃除場所の渡り廊下は吹きさらしで、冬は人気がない場所だ。私と真菜はじゃんけんに負けてこの掃除場所になってしまった。
「寒いー実衣もう帰ろうよー」
と、ホウキを動かす気がない真菜をなだめながらせっせとはいていた。すると、後ろから
「小山!」
と誰かが私を呼んだ。振り返ると、そこには貝原がいた。貝原の掃除場所ここじゃないはずなのにと思いながら、
「なんか用事?」
と言うと、貝原が走って私の近くまで来た。そして、
「今週の土曜日バスケの試合があるんだ」
と、意味の分からない事を言い出した。びっくりして
「へえー頑張って」
と返すと、貝原は俯きながら
「だから…応援とか来て欲しいなぁと思って…」
と言った。なぜと不思議に思っていたら、真菜が横から勝手に
「いいよー私もバスケの試合行きたいもん!」
と、勝手に返事をした。いやいや、あんたが行きたいとか関係ないしと、つっこんだ。すると貝原が、私を見て
「マジで?いいのか?」
と、聞いてきた。まぁ、用事も無いからいいかと思い
「いいよ」
と返事した。すると貝原は笑顔で
「サンキューな!試合は市民会館で、10時からだから!」
と早口で言って走っていってしまった。
なんなんだ、あの人は。と思っていたらら真菜が
「あいつ、実衣に気があるね」とニヤニヤして言った。
「何言ってんの?んなわけないから」
と言い、教室に戻った。

土曜日、私は真菜と市民会館にきていた。そこでふとした疑問が浮かんだ。
「ところで、真菜は何で試合来たかったの?」
と聞いた。すると真菜は当たり前のように
「赤田君見たいからにきまってんじゃん」
と言った。あーだからかと納得した。
「あ、実衣!もうすぐ試合始まるみたいだよ、行こっ!」
と、真菜に引っ張られ体育館に入った。体育館にはいろんな学校のバスケ部がいた。真菜がキョロキョロしている。
「何キョロキョロしてんの?」
と聞くと、
「イケメンいないかなと思って」
と言う。呆れながら
「さっきまで赤田君って言ってじゃん」
と言うと、真菜は
「赤田君は目の保養で、彼氏にしたい人を探してんのー」
とまた言い出した。
「あんたねぇーもうちょっと」
私が話そうとするとそれを遮り真菜が、
「あ、いたよ、私達の学校」
と私の手をとり走り出した。全く真菜は強引だ。バスケ部がいる所に行くと貝原が私達に気づいた。
「おー小山!」
「あ、おはよ」
と言うと、周りの部員達が
「おー部長彼女ですか?」
と冷やかす。貝原は慌てて、
「ちげーよ」
と言っている。私はチラッと赤田君を目で探す。いた。赤田君は、端の方でバッシュの紐を結びながら友達と話している。すると冷やかされた貝原が赤田君に
「おい、赤田助けろ!」
と叫んだ。すると赤田君は貝原を笑いながら見た。
「先輩の彼女ですか?」
と、皆と同じように叫んだ。貝原はそんな赤田君に
「お前もか!」
と、悲しそうに言った。
赤田君って意外に笑うんだっとその時思った。すると、顧問が来て部員達に
「試合始まるからコート入れ」
と、言った。部員達は羽織っていたジャージを脱いで用意を始めた。
赤田君を見ると、1年には見えない筋肉がほどよくついた手足が見えていた。素直にかっこいいと思った。
「小山」
貝原がいた。
「応援よろしく」
と二カッと笑うと貝原は皆とコートに入っていった。
真菜がそれを見て、
「あっれー?君たち付き合ってんのー?」
と冷やかしをいれてくる。
「違うしー」
と言いながら貝原を見る。貝原が視線に気づき微笑んだ。あいつがモテる理由がなんとなく分かった気がした。

そして試合が始まった。
レギュラーは2年ばかりだ。隣で真菜が
「なんだー赤田君出てないじゃんー」
と残念そうに言う。赤田君はベンチで自分のチームの得点を書いている。貝原頑張ってるなぁーと思いながら試合を見ていた。

試合の中盤に差し掛かった頃、相手チームとの衝突でレギュラーの1人が怪我をしてしまったようだ。
「誰がでるんだろうねー?」
と話していると、何と赤田君が出るらしい。
「きゃー嬉しいー!」
と真菜が喜んでいる。
赤田君上手いんだなぁと思った。
赤田君が加わって試合は再開された。それからの流れは私の学校で、貝原と赤田君がどんどん点を入れていった。

そして、10点差で勝った。真菜は大はしゃぎだ。
「赤田君かっこよかったねぇー」
と興奮気味に話している。
確かにかっこよかった。貝原も抜群に上手いが、赤田君も負けてなかった。
コートを見ていると、赤田君と目があった。赤田君は慌てて目を逸らしてしまった。

コートから戻ってきた貝原が私達の所に来て、
「ありがとな、来てくれて。」
と笑って言う。
「おめでとう!良かったね」
と言うと、貝原はまた笑った。
真菜が
「ねぇ、私赤田君と写真撮りたいんだけど、頼んでくれない?」
と、言った。
「あぁ、いいぞ」
と、3人でバスケ部の元へ行った。そして貝原が、
「赤田!」
と赤田君を呼ぶ。赤田君が振り返り、こちらに歩いてくる。貝原が、
「林と写真撮ってやって」
と頼む。赤田君は
「いいですよ」
と、無表情で言う。
「やったぁーじゃぁとろー」
と、真菜は携帯をだしながら言う。
2人が並んで真菜が、
「実衣とってー」
と、携帯を渡してきた。うんと受け取り画面に2人をうつす。赤田君は笑うわけでもなく立っている。すると真菜が
「赤田君笑ってよー」
と言う。赤田君はびっくりしながらも、ニコッとぎこちない笑顔をつくる。それを見て、私はシャッターをきった。はい、と真菜に携帯を返すと真菜が
「実衣も並んでー」
と言い出した。誰と撮るのかと思った。
「誰と?」と聞くと真菜が当たり前かのように、
「赤田君とに決まってるんじゃん」と言う。なんでなんだと思い
「いや、私は別にいいから」
と断ると、真菜は
「記念なんだからいいじゃん、ほら」
と私を赤田君の隣に押した。よろけて赤田君の肩にぶつかってしまった。
「あ、すみません」
と謝ると彼は無表情のまま
「いや、大丈夫です」
と言った。真菜が
「はぁーい撮るよー」
とシャッターをきる。撮った写真を見てた。赤田君は無表情で、私はぼーっとした表情をしている。おかしい写真だった。真菜が
「あーありがとね」
と、赤田君に言った。すると彼は一瞬笑顔になり、
「いえ、じゃぁ」
と言って友達の所に戻って行った。その笑顔が私の胸に焼き付いていた。
そのまま貝原に帰ると告げ、真菜と会場を後にした。その帰り道でも、なぜか赤田君の笑顔を忘れることができなかった。

そして、バレンタインの季節になった。あれから変わった事といえば、真菜に彼氏ができたことくらいだろうか。真菜は隣のクラスの派手な子と付き合いだした。昼休みの今も、彼氏といちゃいちゃタイムだ。
「もーたっくん嫌いー」
「そんな事言っていいのかー?」
と、見てるこっちが恥ずかしい。
「いちゃいちゃするなら他のところでしてくれます?」
と言うと、真菜が
「羨ましいでしょー?」
と訳も分からない返しをしてくる。
「んなわけないでしょーが」
と、半分怒りながら言うと
「怖いー」
と全く聞いてない。
「実衣も彼氏作ればいいじゃん」
とまた突拍子もない事を言い出す始末。
真菜には何を言っても無駄だと諦めた時、誰かが私の名前を呼んだ。振り向くと、廊下から私を呼んでいたのは貝原だった。貝原とはあれからたまにメールをする仲になり、何かと話している。
「何?」
と近づくと、
「あー部費の事でさ」
と、部活の話をする。そういう話でも、正直女子の視線が痛い。貝原は相変わらずモテるみたいだが、彼女をつくろうとはせず、日に日に貝原に振られていく女子が増えていっている一方だ。
「おい、聞いてるか?」
と貝原が覗きこんできた。
「あーうん!」
と、聞いてないながらも返事をする。
「じゃぁ、今日メールするわ」
と言って、貝原は帰って行った。ん?メール?と思ったが、まぁいいかと席に戻る。真菜が彼氏とニヤニヤこっちを見ている。
「何?」
と、怪訝そうに聞くと、真菜は
「いやーラブラブだなと思ってー」
とニヤニヤ言う。
「んな訳ないでしょ、今のだって、仕事の話だし。」
と言っても真菜なニヤニヤは止まらず、
「いつくっつくか見ものだねーたっくん」
と彼氏を見る。彼氏も
「だねー」
とにやけている。本当にいちゃいちゃは他のところでやってほしい。

その日の帰り道、真菜が
「実衣は、バレンタイン誰にあげるの?」
と聞いてきた。
「あげないよ、誰もいないし。真菜は彼氏でしょ?」
と聞くと
「当たり前だよー」
と言った。
「そういえば、真菜赤田君はもういいの?」
と、赤田君の事を急に思い出した。
「あれはまた違うもんー。今はたっくんだし」
とあっさり言う。そういうもんなんだろうか。赤田君人気はあれからもおさまることは無く、相変わらずモテていた。でも貝原と同じように彼女の噂は無かった。
その日の夜、貝原からメールがきた。それから何気ない会話をしていると、
「バレンタイン誰かに作るのか?」
とメールがきた。貝原がこんな話するなんか珍しくなと思いながら、
「あげないよーあげる人いないし」
と返す。すると、1分もしないうちに返信がきた。
「そうなん?じゃぁ俺にちょうだいや笑」
意味がわからない返事にびっくりした。
「は?どうしたの、貝原笑」
と送ると、また1分もしないうちにまた返信がきた。
「いやー誰にもあげんのんなら欲しいなぁと思ってさ」
とかえってきた。貝原はなぜ、私のチョコなんかが欲しいのかと不思議に思った。あーもしかしたら友達と競争でもしているのかと、私なりの考えにたどり着いた。それならまぁ、いいかとメールに
「まぁ、いいよ」
と返して私は眠りについた。

そしてバレンタイン当日。教室に行くとやはり、バレンタインモードになっていた。教室のあちこちで男女が話している。真菜が教室に来た。
「あー実衣おはよー!」
「おはよー」
真菜が鞄から何かを取り出した。
「はい、あげるー」
チョコだった。でも形がひどい。
「これ、どうしたの?」
と聞くと真菜は
「彼氏に作った時の失敗作ー」
と笑いながら言う。彼氏にあげられないから私にくれたらしい。
「彼氏の失敗作って」
と苦笑いしながら言うと真菜は
「ゴメンってーでも味は美味しいから大丈夫だよ」
と笑う。まぁ、いいかと真菜にもらったチョコを鞄にしまった。
「実衣、誰かに作ったの?」
と、言われた。
「まぁ…」
と答えると真菜は
「あー分かったー貝原でしょー?」
とニヤニヤしながら言った。
「別に本命とかじゃないし!」
とついムキになっていってしまった。
「はいはぁい、分かった分かった」
と真菜はニヤニヤしながら言った。
昨日の夜、貝原にチョコを作った。何故だかウキウキしている自分がいて、びっくりした。
「じゃぁ、真菜渡してくるねー」
と真菜は教室から出て行った。貝原には放課後渡すつもりだ。

放課後、貝原を靴箱に呼んだ。走ってきた彼は、真冬にもかかわらず、にユニフォームに汗をかいていた。
「これ」
と持っていた袋を渡すと貝原は目を輝かせた。
「あーサンキュー!」
と言い袋を受け取った。
「じゃぁ」
と、私が立ち去ろうとしたら
「サンキューな!」
と笑った。その笑顔にキュンとする自分には気づかないふりをして寒い風が吹く道を帰った。