「お帰りなさい」
「…あぁ」
「ご飯…食べる…?」
「…いらねぇ」
あたしの目もみずにリビングへと
入っていく彼からは香水の匂いがした。
知ってた。
…彼が…成が浮気していることを。
彼とは高校で知り合った。
その時から成は浮気が絶えなかった。
でもあたしは成が好きだったから
別れようなんて思えなかった。
大学に入ってからも成は
女子にモテ続け、浮気も止めなかった。
それでも成が好きだったから。
あたしは成に結婚を申し込んだ。
…でも、もうそろそろ
解放してあげなくちゃね?
あたしが成を好きなように
成も浮気相手の事すきなんでしょ?
それくらい分かる。
もう何か月も同じ香りの香水。
面倒な事が嫌いな成が何カ月も同じ人
と一緒にいるのはめずらしい。
でも、あと1週間だけ。
妻として一緒にいてもいいですか?
残り一週間。
いままでとは違って話しかけよう。
休日は誘おう。
沢山喋ろう。
くいがないように。
1日目。
「ただいま」
久々にそういいながら玄関のドアをあけたあなた。
それだけで喜んでしまう私は単純なのだろうか。
「おかえりなさい」
隣をすれ違った時に匂う香り。
いつもと変わらないその匂い。
私を現実へと引き戻す。
「…今日ご飯は…?」
きっといらないと返されると思っていた。