「秋山夢芽役、木下陽奈さんクランクインでーす!」
スタッフの1人に紹介され、あたしは大きく深呼吸をし
「よろしくお願いします!」
と、元気に挨拶をした。
高校生役のため、かわいらしいセーラー服に身を包んでいる。
…あたし、リアル高校生だけど。
でも、設定は本年齢よりも2つ上。
高校3年生の設定だ。
「桐谷勝也役、安藤遥斗さんクランクインでーす!」
「よろしくお願いします」
台本を確認していると、そんな声が聞こえてきた。
安藤さんは学ランに身を包んでいる。
19歳の安藤さんだけど…
ちゃんと高校生に見える。
それにオーラがすごい。
やっぱりかっこいいな…。
「じゃあ、軽く台本読み合わせてみよう」
挨拶回りをしていた時に、あたしにオーディションの話を持ちかけてくださった監督の声がした。
あの時監督があの場にいなかったら。
挨拶回りをする日があの日じゃなかったら。
あたしは今きっとここにいない。
このオーディションの存在すら知ることができなかった。
…これも運命、なのかな。