「いらっしゃいませ!」




それから時が経って、今は正午。
お客様も少し増えてきていて私は休む暇がなくなった。しかし私は休む暇がない方が何故か嬉々とした顔をしてしまう。

この甘味処が繁盛していると実感できるからかもしれない。




「よっ、伊勢ちゃん!」




いつもの時間にやって来た大家さんに注文を聞こうと駆け寄った、その時だった。




「おい!長屋の旦那!こっち来て見てみろよ!壬生の狼共だぜ!」




外から顔を出したこれまた常連さんが何やら興奮した様子で外を指す。
その「壬生の狼」という言葉に団子を食べていたお客様のほとんどが席を立ち、外の様子を伺いに行った。




「壬生の....狼」




私も好奇心があったため、お客様の間から覗くことにした。




「なんでえ、もっといかつい野郎達かと思えば....軟弱そうな奴らばかりだな」




「?!」




お客様たちはガッカリしていたが、私は声にならない声をあげていた。




「今朝のッ....、それにあの二人は昨日の!」




周りの話を聞いていればこれは「巡察」という仕事らしい。十数人がぞろぞろと道の真ん中を歩いていく。

その先頭辺りにいたのが、今朝私を助けてくれた侍と昨日甘味処にきた二人だったのだ。




「あの人たちが....壬生浪士組....」




そうつぶやいた瞬間、昨日の高身長の男と目が合った。と、思えば大きく手をふられた。




「お~い、君~!昨日は楽しかったよ~!」




「おい!あいつ伊勢ちゃんに向けて言ってねえか?!」

「楽しかったって....何があったんだ伊勢ちゃん!」

「まさかあいつと....」




なんてあらぬことを想像され、私は真っ赤になって高身長の男を睨みつける。
しかしその行動は事態を悪化させるだけだったようで、常連さんにさらに問いただされる羽目になった。




「お?もしかしてさっきの女の子昨日の甘味処の子か?」




沖田が何やら珍しく大声で何か言っていたので気になった藤堂が視線の先を辿れば甘味処の娘が真っ赤になって立っていた。

藤堂は娘の言葉を思い出し、また吹き出す。




その様子を見ていた伊勢を今朝助けた男――斎藤一(さいとうはじめ)は内心驚いていた。




「あの娘が....昨日総司が言っていた女子なのか....」




ボソリとつぶやかれた言葉に反応して沖田がバッと振り返る。




「何、一君あの子のこと知ってるの?」




それはまるで自分のおもちゃを取られた子供の態度のようで斎藤はわけがわからなくなる。




「ああ、今朝散歩をしていたらあの娘が浪士に絡まれていたのでな....助けた」




簡潔に説明すれば「ふぅん」と納得のいってなさそうな声を返される。
正直面倒くさいと思った斎藤は沖田の鋭い視線に気づかないふりをした。