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祇園祭の前の風の強い日を狙って
御所に火を放ち
その混乱に乗じて中川宮朝彦親王を幽閉
一橋慶喜・松平容保らを暗殺
孝明天皇を長州へ連れ去る




京の町に潜んでいた長州の古高俊太郎が数時間による拷問の末、そう吐いた。




古高の血が染みた土方の隊服を見てすれ違う平隊士の誰もが息を呑む。
そして、「鬼だ」「バケモノだ」と噂した。




人を活かせぬのなら殺すな

などと綺麗事を抜かした奴がいたなと土方は空を仰ぎ見る。




「俺を見たらあいつも逃げるんだろうな」




だがそいつは今、殺生で食ってる者の世話になってる。なんとも矛盾した話だ。

まあ正確に言えば閉じ込めている、ということになるのだが。




なんとなく着替える気にもなれなくて土方は縁側に寝そべった。五月の風は心地よいがそれに乗じて血の臭いまで混じってくる。




「くせぇ」




一言そう言って目を閉じれば女の悲鳴に似た声が聞こえた。
だがそれは一瞬で小さなものだった。




「土方さん!」




この新選組にいる女といえば一人しかいない。誰か分かれば土方はどうでもよくなって狸寝入りを決め込んだ。




「どうし、よう....血が....」




そこで何か誤解を生んでいることに気づいた。血にまみれたこの隊服を彼女、伊勢は土方の出血によるものだと思ったらしい。




「土方さん?大丈夫ですか?生きてますか?」




頬をペチペチと叩きながら聞いてくる彼女の声は震えている。




面倒なことになったと顔を顰めれば、動きがあったことに伊勢は喜んだ。




「動いた!とりあえず起こそう」




言うや否や彼女は土方の自室に走り出した。どうやって起こす気だとさすがに目を開ければ




「あ、起きた....」




部屋に飾られているはずのでかい壺を振りかざしている伊勢が視界に映った。