つまり、あの人は声をかけずともさっさと来いと言いたいのだろうか。




――なんて人!なんて人!




人使いの荒さに苛立って、ついつい洗い物をする手に力が入る。

また皮が割れた気がするがもはやどうでもいい。




区切りのいいところで道具を端に寄せ、私は勝手場に向かった。
茶と菓子をお盆にのせていれば
思い出したようにかじかんだ手がピリピリと痛む。





――あとで温めよう。





「失礼します」




気を取り直して部屋の前で声をかける。
しばらくしてから短い返事が返ってきた。




障子戸を開ければ土方さんは難しい顔をして書簡とにらめっこしている。




その隣を見ればもうひと山くらい書簡が積み上げられていた。





――これを一人で処理するの....?




よく見れば土方さんの目の下にはクマがある。




相当疲れが溜まっているらしい、
もしかして徹夜で仕事をこなしていたのだろうか。




すっかり戦意を削がれてしまった。
一言文句を言ってやろうと思ったのにこれでは何も言えない。




「お茶をお持ちしました」




先程返事は返ってきたので私の存在は気付いているはずだが一向に休憩を取ろうとしない、土方さん。




ずっとこの調子なのだろうか。




「........」




「........」




「お茶、冷めてしまいますよ?」




「ああ....」




「私が飲んでしまいますよ?」




「ああ....」




「あの」

「うるせぇ!静かにしてろ!」




これは、

あまりよくないことだ。
体を壊しては仕事だって滞ってしまうし悪循環が発生する。




私は思い切って行動に出た。





「........」




「........わッ!!!!!!!!!!!」




「ぅをッ?!?!何しやがる!!」




行動と言ってもただ耳元で叫ぶだけなのだが注意を引くのには効果があったようで。




耳をさすりながら「鼓膜が破れるじゃねぇか」なんてブツブツ言っている土方さんを無視して私はお茶を差し出した。




「はい、集中が切れてしまいましたね
これは休憩をとる他ありません」




ニッコリそう告げれば小娘に一杯食わされたのが不服なのか。眼光鋭く私を睨む。




「ひっ」




この鬼のような形相には慣れられるものじゃない。それでも頑なにお茶を突き出したままでいれば、ようやく土方さんは受け取ってくれた。




「ったく....おめぇの怯える基準が分からね....ぇ....??」




ホッとして部屋から出ていこうと思い手を引っ込めようとすれば引き止められた。




引っ込めようとしていた手は今土方さんの手の中。




――ゴツゴツしてるなぁ....、じゃなくて!




「なななななんですか?!?!」




「おめぇ....」





ジッと見られて(睨まれて)居心地が悪い。