「無謀な賭けだな」




そうつぶやいた私の目の前の人は、
受け止めていた浪士の刀をスラリと流した。
途端に浪士はバランスを失い前方に倒れそうになる。




「なッ!!」




その隙をついて目の前の人は
鳩尾に蹴りを入れた。
浪士は大柄にも関わらず呆気なく吹っ飛び意識を飛ばす。




「....すごい」




一連の流れるような動きに私は思わず口にした。次の瞬間周りにいた者たちがワッと湧く。

私は礼を言っていなかったことに気付き目の前の人に頭を下げた。




「た、助けていただき――」

「あんたは阿呆なのか」

「は?」




食い気味にかけられた言葉に驚き頭を上げれば鋭い視線が私に向けられていた。
訳がわからず眉間にシワを寄せればため息をつかれる。




「俺が出てきていなかったらどうしたのだ、あんたが死ねば後ろの童も死んでいたぞ」




正論を述べられ俯く。




「............................
確かに....私の行動は浅はかでした
心のどこかで誰かが助けてくれると思っていたのかもしれません」




「しかし」




「?」




どうしてもこれだけは言わねばならないと思い俯いていた顔をあげ前を見据える。




「あそこで立ちはだからなければ、私は一生後悔していた事でしょう
それだけは御免です」




フンッと鼻息荒く言えば目の前の人は目を見開いて驚く。いや、どちらかといえば呆れてるのかもしれない。




「命云々よりも後悔しない生き方を選ぶか....」




ボソリとそう言えば私の後ろにいた少年に声をかけた。




「童、大丈夫か」




どうやら放心状態だったのか急に声をかけられ少年の肩が跳ねる。「ああ、」と言いながら立ち上がり私に荷物を手渡した。




「兄ちゃんと姉ちゃんが守ってくれたおかげだ、ありがとう」




そう言ってはにかむ姿はあまりにも母性本能をくすぐるので私は抱きしめてしまいたい衝動に駆られる。

なんとか自分を制して助けてくれた人の方に向き直ればジッと見られていた。




「うわっ、な....なんでしょうか」




「いや、京とはあんたのような者たちばかりなのかと思ってな」




「どういう意味ですか」




何故かいい意味とは思えない私は睨みつける。それにしてもこんな強い人、ここらにいたかと考え込めばその人は歩き出してしまった。

まだお礼も言ってない!
慌てて追いかけてその人の袖を掴めば立ち止まり、顔だけこちらに向けた。




「なんだ」




「助けていただきありがとうございました」




それだけ言って手を離せばその人は眉一つ動かさずに顔を戻しまた歩き出した。

不思議な人、私のその人に対する印象はそれだけ。




さて、と一息ついて荷物を持ち
甘味処へ急いだ。