「ええ、確かに私の言ってることは綺麗事です....今の世の中じゃ生きていけない」




「おい」




スッと立ち上がれば幹部のほとんどが刀の鯉口を切った。部屋に殺気がたちこめる。




言わなければ、




そう思った。




「けれど....けれど誰かが綺麗事を言い続けないといずれお互いを傷つけあって人間は滅びます

皆さんどこかで綺麗事を理解しているから平静を保てているんではないでしょうか」




シ....ンと部屋が静まった。




――ああ、もうお店は開いているだろうに。




頭の中は冷静で、甘味処を気に掛けるほどの余裕もできている。




しかしここからそう易々と出してもらえないだろう、芹沢さんの暗殺の犯人も知った。
壬生浪士組の幹部相手に啖呵も切った。




覚悟を決めて後に離れるであろう首をさすっていれば、土方さんが考え込むように閉じていた瞳を開く。




「....てめぇは甘味処の奉公してるんだったな」




「....?はい

まさか!主人に手をだそうだなんて考えていませんよね?!」




「フン、知るか

それはてめぇのこれからの行い次第だ」




私は土方さんの言っていることの意味がわからず首を傾げる。
何かに気付いたのか近藤さんが慌てて土方さんを止めた。




「ちょ、ちょっと待てトシ!
お前まさかこの子をこき使おうってんじゃないだろうな!」




――こき使う....?




「こいつを今殺すって言ってもあんたは頷かないだろ、近藤さん

なら人質を作ってここで働かせればいい」




その言葉で誰もが土方さんの目論見を理解したようで、土方さんを止めにかかる。




「土方さん、この子生かしておくんですか~?外部に漏れる心配はないとしても隊士達にバラされたら終わりですよ~」




「総司!お前伊勢のこと疑ってんのかよ!俺は殺すのも働かせるのも反対だ!」




沖田さんの発言に驚いていれば藤堂さんが私をかばうように言葉を放つ。

しかし、先程私に殺気を向けていたこともあったもいうのにどういう風の吹き回しなのだろう。




以前とは違い、やはり冷めた目でこの方たちを見てしまう。
そんな私がここで働くだなんて不可能だ。




「私は甘味処の奉公娘です、一生体の動く限りあそこで働くと誓いました

それを裏切りここで働くくらいならいま首を切り落としてください」