*
嫌な予感しかしない。
もし、もしも、芹沢さんが何者かに襲われていたとしたら。
芹沢さんを助けたい。そう思うのに私の足は震えて言うことを聞かなかった。
後悔しない生き方をしたいのに、いざ死を目の前にするとすくみ上がる自分に腹が立つ。
「ッ....!もう!動け!動け!動け!」
歯を食いしばって私は自分の足を叩き続けた。思い切り叩いたので少しジンジンと痛むがその痛みのおかげで一歩踏み出せる。
「芹沢さんの盾になるって、決めたんだから」
自分を奮い立てて決意を固め、また走り出した。
「――斎藤!そっち回れ!」
「はい!」
芹沢さんの庭先に、数人の男が抜刀して攻防を続けている。その中に芹沢さんを見つけ、刺客かと思ったのも束の間、
私の足は、また止まってしまった。
目の前の光景に目を疑う。
「うわぁッ!!」
「総司!」
芹沢さんを襲っているのは、
「斎藤さん、沖田さん、藤堂さん....土方さん?」
どうして?
その言葉が何億と頭を駆け巡る。
そりゃあ、壬生浪士組が分裂していることは知っていたし話し合いで解決できるものではないと大家さんにも教わった。
でも、どうして、よりにもよって、この人達なのだろうか。
もっと、顔も知らない人なら。
この足は止まらなかっただろうに。
「――ッどうして?!」
叫ぶように声を発すれば、芹沢さんや芹沢さんを取り囲んでいた人達は私にようやく気づいた。
その中の一人、この人は確か....原田左之助(はらだ さのすけ)さんが私に持っていた槍を向けた。
芹沢さんと仲良くしていた私を覚えていたのだろう、そして尚、協力者だとでも思ったのだろうか。
私を見る目はそういう色が混じっていた。
「何しに来たんだ?殺されてぇのか」
発せられる声も怒気を含んでいる。
芹沢さんの暗殺にでも手を焼いていたのだろうか。
私は睨み返すと遠慮なく間合いに入っていった。
「退いてください」
まさか動くとは思っていなかったのか、原田さんは怯み私へ槍を向けるのをやめた。
芹沢さんの方へと視線を向ければ全員が唖然とした顔をしている。
「小娘....」
「芹沢さんに簪のお礼を言おうと思って」
斎藤さんの横をすり抜け、芹沢さんのそばへ行く。しかしそれは鬼のような形相をした人に阻まれた。
「何してやがんだてめぇ!!」
ようやくいつもの冷静さを取り戻したのか土方さんが私に怒鳴りつける。
刀が視界にちらついたこともあり、私の肩は大きく跳ねた。
「........」
「....今どういう状況かも分からねぇのか」
雨の匂い、に混じって香る
これは血の匂いだろうか。
私は視線を落とし、声が震えながらも言葉を返した。
「分かっているから、飛び出したのでしょう」
手を伸ばせば、届くのに。
「私は、芹沢さんに死んで欲しくないから飛び出したんです!気に入らないなら斬ればいい!
その代わり芹沢さんを殺さないでください!」
「小娘、やめろ」
「随分好かれたもんだな....この女に何をしたんだ?あんた」
馬鹿にするような口調に腹が立つ。
私は構わず土方さんの横を抜けようとした。
しかし今度は後ろから羽交い絞めにされ、身動きを封じられる。
「!沖田さん!離してください!」
その直後、芹沢さんが刀を手放した。
それどころか目を閉じる始末。
私は芹沢さんに向かって叫ぶ。
「芹沢さん?!何してるんですか?!逃げてください!!」
「それはできん」
「何故ですか!!」
何度問うても芹沢さんは口を開かなかった。その様子を見ていた土方さんがフッと溜め息をこぼす。
「お前、気付いてねぇのか」
「何を....」
「今、芹沢さんはお前を人質に取られたんだ」
「!!!!!!!!!!!」
背筋が凍りついた。
私は何て事をしてしまったのだろうか。
確かに冷静に考えれば分かることだろう。
芹沢さんの剣の腕は道場で見たとおり、すざまじいものだ。きっとこの分の悪い状況でも、手傷を負うものの、逃げ切ることはできたかもしれない。
私は、その可能性を
断ってしまったんだ。
嫌な予感しかしない。
もし、もしも、芹沢さんが何者かに襲われていたとしたら。
芹沢さんを助けたい。そう思うのに私の足は震えて言うことを聞かなかった。
後悔しない生き方をしたいのに、いざ死を目の前にするとすくみ上がる自分に腹が立つ。
「ッ....!もう!動け!動け!動け!」
歯を食いしばって私は自分の足を叩き続けた。思い切り叩いたので少しジンジンと痛むがその痛みのおかげで一歩踏み出せる。
「芹沢さんの盾になるって、決めたんだから」
自分を奮い立てて決意を固め、また走り出した。
「――斎藤!そっち回れ!」
「はい!」
芹沢さんの庭先に、数人の男が抜刀して攻防を続けている。その中に芹沢さんを見つけ、刺客かと思ったのも束の間、
私の足は、また止まってしまった。
目の前の光景に目を疑う。
「うわぁッ!!」
「総司!」
芹沢さんを襲っているのは、
「斎藤さん、沖田さん、藤堂さん....土方さん?」
どうして?
その言葉が何億と頭を駆け巡る。
そりゃあ、壬生浪士組が分裂していることは知っていたし話し合いで解決できるものではないと大家さんにも教わった。
でも、どうして、よりにもよって、この人達なのだろうか。
もっと、顔も知らない人なら。
この足は止まらなかっただろうに。
「――ッどうして?!」
叫ぶように声を発すれば、芹沢さんや芹沢さんを取り囲んでいた人達は私にようやく気づいた。
その中の一人、この人は確か....原田左之助(はらだ さのすけ)さんが私に持っていた槍を向けた。
芹沢さんと仲良くしていた私を覚えていたのだろう、そして尚、協力者だとでも思ったのだろうか。
私を見る目はそういう色が混じっていた。
「何しに来たんだ?殺されてぇのか」
発せられる声も怒気を含んでいる。
芹沢さんの暗殺にでも手を焼いていたのだろうか。
私は睨み返すと遠慮なく間合いに入っていった。
「退いてください」
まさか動くとは思っていなかったのか、原田さんは怯み私へ槍を向けるのをやめた。
芹沢さんの方へと視線を向ければ全員が唖然とした顔をしている。
「小娘....」
「芹沢さんに簪のお礼を言おうと思って」
斎藤さんの横をすり抜け、芹沢さんのそばへ行く。しかしそれは鬼のような形相をした人に阻まれた。
「何してやがんだてめぇ!!」
ようやくいつもの冷静さを取り戻したのか土方さんが私に怒鳴りつける。
刀が視界にちらついたこともあり、私の肩は大きく跳ねた。
「........」
「....今どういう状況かも分からねぇのか」
雨の匂い、に混じって香る
これは血の匂いだろうか。
私は視線を落とし、声が震えながらも言葉を返した。
「分かっているから、飛び出したのでしょう」
手を伸ばせば、届くのに。
「私は、芹沢さんに死んで欲しくないから飛び出したんです!気に入らないなら斬ればいい!
その代わり芹沢さんを殺さないでください!」
「小娘、やめろ」
「随分好かれたもんだな....この女に何をしたんだ?あんた」
馬鹿にするような口調に腹が立つ。
私は構わず土方さんの横を抜けようとした。
しかし今度は後ろから羽交い絞めにされ、身動きを封じられる。
「!沖田さん!離してください!」
その直後、芹沢さんが刀を手放した。
それどころか目を閉じる始末。
私は芹沢さんに向かって叫ぶ。
「芹沢さん?!何してるんですか?!逃げてください!!」
「それはできん」
「何故ですか!!」
何度問うても芹沢さんは口を開かなかった。その様子を見ていた土方さんがフッと溜め息をこぼす。
「お前、気付いてねぇのか」
「何を....」
「今、芹沢さんはお前を人質に取られたんだ」
「!!!!!!!!!!!」
背筋が凍りついた。
私は何て事をしてしまったのだろうか。
確かに冷静に考えれば分かることだろう。
芹沢さんの剣の腕は道場で見たとおり、すざまじいものだ。きっとこの分の悪い状況でも、手傷を負うものの、逃げ切ることはできたかもしれない。
私は、その可能性を
断ってしまったんだ。