「ごちそうさまでした、とても美味しかったです」




昔のことを思い出していればいつの間にか完食していた。手を合わせて主人に礼を言い、片付けに取り掛かる。




「........」




何を考えているのだろうか、難しい顔をして主人は動かない。

箸は置かれていたので膳を下げようかと声をかければ返ってくるのは曖昧な答えだけ。




深刻な問題と判断し、正座をして待っていれば弾かれた様に主人の頭が上がった。




「伊勢ちゃん....」




「はい」




真剣な眼差しに唾を飲み込む。
ハラハラとした気持ちで次の言葉を待った。




「言うか言うまいか迷ったんだがね....

その簪と一緒に、詩が入っていただろう?」




「....?はい、確か

雪霜に色よく花の魁て
散りても後に匂う梅が香、とありましたが」




「伊勢ちゃんが出掛けた後にその詩の意味をよく考えてみたんだが....その人は命が狙われてやしないかい?」




ザワッと全身の鳥肌が立った。
斎藤さんの「暗殺を企てている者もいる」と言う言葉が頭の中で繰り返し流れる。




「何故、そう思うのですか」




声が震える。
どこかで聞きたくないと思っている自分がいた。




「この詩は....きっと梅を自分に例えているね、それは伊勢ちゃんにもわかるだろう?」




「はい」




「梅というのは春を待たずに、
雪や霜にも負けず一番に鮮やかな花を咲かせる

その為に早く散っても、匂いは残る

そのままの意味でに詠み取ると季節を詠んだ詩だろう?
....しかしもう梅の季節じゃあない」




「それに、この詩を送ってくれたのはお侍さんだったから真意を取れば

自分は誰よりも先んじて
日本の夜明けの為に戦い、志士の先駆けとして死ぬだろう、しかし後世まで語り継がれる

と解釈できるんだ」




「死....ぬ....?」




「まあ、少し考え過ぎかとも思ったんだが簪と一緒に送る詩じゃないなと思ってね

深読みし過ぎた気もするから、間に受けなくてもいいよ」




そこからは主人の声が耳に入ってこなくなった。うまく頭が回らない、考えれば考えるほどに分からなくなる。

いや、どちらかと言うと私の頭が理解したくないと思っているのだろう。




もし主人の言う通りの意味ならば、辞世の句であり、私に自分の死を知らせる文でもある。