「うん、とても綺麗になったね」




丁寧に洗われた体は元の白さを取り戻し、男の子のようだった容姿がガラリと変わる。

ボロ雑巾のような着物は洗濯されてしまい、代わりに近所の娘が最近まで着ていたお古を着させられた。




良質な物なのかお古といっても傷ひとつない。




櫛で梳かされた髪は以前のようにボサボサではなく、まとまりがあらわれた。

久しぶりに綺麗な格好をさせられてか、恥ずかしくなる。




「気に入らなかったかい?」




俯いていれば、覗き込むようにして問いかけてくる老人に私は大きく首を左右に振った。




どうして店の前にいたのかと問われ、
とても良い香りがしたからだと答える。

身寄りはあるのかと問われ、
ないと答えた。




それだけ聞いた老人は少し考えたあと立ち上がり、私の頭をくしゃりと撫でた。




「私は仕事に一度戻るからね、自由にしていていいよ」




過去や見てくれにこだわらないその人に私は憧れの眼差しを向けた。




――恩返しがしたい。




私はその晩、老人に頭を下げて奉公させてくれと懇願した。




「なんでもする、しごとをく....ださい」




「しかしなぁ....」




仕事なんかせずに家に居ていいと言われもしたがそんな事は出来ないと再度頭を下げた。




「頑固な子だ」




これが、十年前の話。