*
そんな時私の鼻をかすめた良い香り。
他にも良い香りを発する店など幾つもあっただろうに、私の足はある甘味屋の前で止まった。
「みたらしの....良い香り....」
ぐううぅとより一層音を大きくなりだした腹の音。店に入ってしまおうかと一歩踏み出したが、また後退した。
――こんな汚い身なりだし、何より金銭だなんて持ち合わせていない。
両親が残したお金は全て葬儀に当てた。
立派な墓も作れた。
しかしお世辞でも裕福とは言えない家庭だったため財産はそれで尽きた。
川の水や湧き水を飲んでなんとか生きながらえてきたが食わずの状態で一体、人はどのくらい生きられるのだろうか。
私はそんな事をぼんやり考えながら甘味屋の前で立ち尽くしていた。
出ていく客は皆、笑顔で帰っていく。
――あれ、私はいつから笑っていないだろうか。
なんて思っていた矢先、
「どうしたんだい」
たまたま店先に出てきた主人らしき男が私に声をかけた。
私のような汚い身なりの者が店先にいると迷惑だと言いに来たのだろうか。うるさいほど鳴る腹を抑えながらその男を睨む。
その様子を見て男はフッと笑みを浮かべて、半ば強引に私を担ぎ上げた。
そのままズンズンと店の中、奥へと連れられていく。
当然ボロ雑巾のような私を担いだ男を見て客は驚き好奇の目を向けてくる。居心地悪いことこの上なかったが抵抗する力など、私には残されていなかった。
そんな時私の鼻をかすめた良い香り。
他にも良い香りを発する店など幾つもあっただろうに、私の足はある甘味屋の前で止まった。
「みたらしの....良い香り....」
ぐううぅとより一層音を大きくなりだした腹の音。店に入ってしまおうかと一歩踏み出したが、また後退した。
――こんな汚い身なりだし、何より金銭だなんて持ち合わせていない。
両親が残したお金は全て葬儀に当てた。
立派な墓も作れた。
しかしお世辞でも裕福とは言えない家庭だったため財産はそれで尽きた。
川の水や湧き水を飲んでなんとか生きながらえてきたが食わずの状態で一体、人はどのくらい生きられるのだろうか。
私はそんな事をぼんやり考えながら甘味屋の前で立ち尽くしていた。
出ていく客は皆、笑顔で帰っていく。
――あれ、私はいつから笑っていないだろうか。
なんて思っていた矢先、
「どうしたんだい」
たまたま店先に出てきた主人らしき男が私に声をかけた。
私のような汚い身なりの者が店先にいると迷惑だと言いに来たのだろうか。うるさいほど鳴る腹を抑えながらその男を睨む。
その様子を見て男はフッと笑みを浮かべて、半ば強引に私を担ぎ上げた。
そのままズンズンと店の中、奥へと連れられていく。
当然ボロ雑巾のような私を担いだ男を見て客は驚き好奇の目を向けてくる。居心地悪いことこの上なかったが抵抗する力など、私には残されていなかった。