幹部の会議が終わったあと、斎藤は縁側で一人空を眺めていた。
時折、口から溢れるため息は憂いを帯びていて隊士達は声もかけられずに通り過ぎていく。




冷静沈着な斎藤の珍しい一面を見て、土方だけが声をかけた。




「どうした、斎藤」




相当何かに悩まされていたのか、土方の気配を読めていなかったらしく斎藤は肩を跳ねさせて驚く。




「いえ、大したことではないのですが....」




土方に心配をかけまいと思っての行動だろうが今は逆効果だ。土方はそんな斎藤に笑いながらも「話してみろ」と促した。




「先刻の会議....命がかかっている話し合い、
しかし俺は至極冷静に話を進めていたなと、思いまして」




「あぁ?其れの何が悪いってんだ」




いつものことだろ、と土方は腕を組んで雨の降る空を見上げる。

確かに幹部の集まる会議は大方命の関係する内容が話し合われる。




斎藤にとっても、初めてのことでは無かった。




「いつもは....不逞浪士や敵の命の話です、が今回は....」




「........そう言う事か」




つまり、斎藤は仲間の命が左右される話し合いで、あっさりと暗殺の話を進めてしまった自分に悩んでいるらしい。




自分はここまで鬼だったのか、と。




土方は一つ大きなため息をついてポツリポツリと言葉を紡ぐ。




「実を言うと、俺には....一切迷いがねぇ」




澄んだ声に嘘偽りがないことが分かる。




「それは、土方さんの心がお強いからでは」




何処か斎藤の中では土方が美化されているらしい。天下無双だとでも思っているのだろうか、土方は眉を寄せる。




「買い被り過ぎだ、俺にだって迷うことや苦手なもんもある

............だが、今回はそういうのがねぇ」




もちろん芹沢鴨が気に入らないというのも一つの理由だろう。しかし土方の中ではもう整理がついているようだった。




仲間に手をかける、心の準備とでもいうのだろうか。




「俺は近藤さんをてっぺんに押し上げると決めたんだ....迷ってなんかいられねぇ」




「............俺は....」




斎藤の瞳が揺れる、ああ、こいつはまだ鬼になってはいないのか。土方はそう思って斎藤の肩にポンと手を置いた。




「迷ってるうちはまだ鬼じゃねぇよ、お前はお前のやり方でこの組を手伝ってくれ」




「ッ....!!承知、しました」




土方の一言で晴れた斎藤の心情とは裏腹に




まだ、雨は止まない。