「では、行ってきますね」




「ああ、いってらっしゃい
気をつけるんだよ伊勢ちゃん」




早朝、私は甘味処の主人に声をかける。
顔こそ見れなかったが仕込み中なのだろう、元気な声が返ってきただけで満足し歩を進める。




昨日は大入りだった為、甘味の材料が減ってしまい私が買いに行くことになった。

とは言ってもこういうことは時々あるため不安はない。
あるとすれば、浪士に金をタカられたりしないかということだけだ。




壬生浪士組とはまた別の、不逞浪士という者達で商家などに乗り込み強請を働くらしい。

最近では町人にも絡むようになったらしくグチをこぼしているお客様もいた。




「どうせ京の治安を守る為に来たのなら、壬生浪士組が追い払ってくれればいいけど....」




まだ肌寒い空気に身を震わせ店へと急いだ。




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「――でね、その子....なんて言ったと思います、近藤さん」




「ううむ....恐い、か?」




「それがですね、会ったことないから分かんないって言ったんですよ!ブフッ」




大の男二人が酒もなしに、朝から真剣に(?)語り合っている姿に
余程むさ苦しさを覚えたのか同席していた男はため息をこぼした。




「あんたらこんな朝っぱらから何やってんだ....」




「そんなこと言うなら出てってくださいよ、土方さん」




「ここは俺の部屋だ!!!!!」




何故邪険にされなければならないのか
と怒鳴る男――土方歳三(ひじかたとしぞう)を尻目に高身長の男――沖田総司(おきたそうじ)は話を続ける。




「ねっ、近藤さんも面白いと思うでしょう?」




まるで子供のように嬉々とした顔で話す沖田に呆れもせず――近藤勇(こんどういさみ)は同意した。




「それは面白い女子を見つけたな総司!」




太陽のような笑顔に沖田もまたにっこりと微笑む。土方はそんな二人を見て毒気を抜かれ項垂れた。




「今日は巡察初めの日なんだ....気の緩んだ行動は慎めよ、総司」




「ヤダなぁ~土方さん、
僕仕事はこなしますよ?」




まるで信用できないとでも言いたげな顔を向ければ沖田は口を尖らせる。





「ったく....お前より歳下の斎藤は朝から京を下見に行ったぞ、守る土地を知らねばうんたらかんたら言ってな」




「何それ」




「とにかく、ただでさえ俺達の評判は悪いんだ....その甘味処の娘がなんて言ったかなんて知らねぇが、これ以上落としてくれるなよ」




眼光鋭く釘を刺せば沖田は怯えることもなく妖艶な笑みを浮かべる。
相変わらず扱いにくい奴だと土方は思うと山積みの書簡に目を通し始めた。