「変な人....だと?」




私の言葉に驚き斎藤さんは視線だけをよこした。

新たに別の隊士の方が芹沢さんに挑み始めたようで、また道場に静寂が訪れる。軽くあしらわれながらも食ってかかって行く様子に笑みがこぼれた。




「自ら悪役をかって出ているだけかと思っていましたが....ちゃっかり楽しんでいらっしゃったんですね」




「悪役....?」




「いえ、無理に斎藤さん達の芹沢さんに対する考えを変えるつもりはありませんので

お気になさらず」




「あんたの言い方のせいで余計気になるのだが」




いつも仏頂面の斎藤さんが少し顔を歪めてムスッとしている。私はそれがおかしくてクスクスと笑ってしまった。




バタン!

またも平隊士の方は吹っ飛ばされてしまったようで悔しそうに俯いている。圧倒的な差を見せつけられて落ち込んでいるのかもしれない。




「次は誰だ」と、芹沢さんが周囲をギロりと睨みつければ、いつの間に移動していたのか沖田さんと藤堂さんが立ちはだかった。




「芹沢さん、僕たちの相手もしてくださいよ」




良いおもちゃを見つけた子供のような沖田さんの目に心臓がはねる。斎藤さんに「大丈夫なのか」と視線を送れば、「見ていろ」と言われた。




「じゃあ、僕からッ!!」




「あ!総司!ズリーぞ!」




沖田さんは持っていた木刀を構え、床を蹴って芹沢さんに突進していく。

しかし他の方とは違い、鋭いそれは一瞬真剣に見えた。




カンッ!




突きにも似た一撃をはらうと芹沢さんは斜め前に一歩踏み出し沖田さんの背めがけて振り下ろす。




そうくるのは承知の上だったのか沖田さんは木刀を瞬時に持ちかえて体をひねり受け止める。




目が離せなかった。

息をするのさえ忘れるほど魅了されている自分に気づく。




しなやかで、それでいて強い。




二人共後ろへ飛び距離をとる。
芹沢さんは口角を上げて楽しくて仕方のない様子。沖田さんも同様に目を細めて笑った。




どちらが勝つのか――、
私を含め見ていたもの全員が息を呑んだ。




両者の足が床から離れそうになった次の瞬間――。




「止め!!!」




審判とは違う、ドスの効いた声が響き渡った。
皆その声に背筋を伸ばす。




「あ〜ぁ....邪魔が入った」と言って沖田さんが構えを崩せば、芹沢さんも木刀をおろした。




ハッと我に返り声のした方へ私は視線を移せば腕を組んだもの凄い形相をした男がたっていた。




「あの....斎藤さん....あの人は....」




「土方さん!」




おずおずと斎藤さんに教えてもらおうとすれば、その人の名を呼んで立ち上がり走っていってしまった。




偉い方なのだろうか、なんてのんきな事を考えていると斎藤さんと何かを話していたその人は私を急に睨みつけてきた。




「おい、てめぇ誰だ....」




そりゃあ神聖な道場によく分からぬ小娘がいれば怪しむだろう。どう答えれば理解してもらえるだろうと考えていれば

芹沢さんが木刀を平隊士の方に託し、こちらへやってきた。




その行動にその人は眉間のシワをさらに深くする。




「わしの友人だ、そう睨むな小僧」




「芹沢さんの....?」




ああ、きっとさらに怪しまれたことだろう。
諦めて私は芹沢さんの横にたった。




「甘味処で奉公をしています、伊勢と申します」