「始め」




先程まで活気溢れていた道場に静寂が訪れる。はじめに芹沢さんに声をかけたのはほんの数人だった筈。

しかし今や試合の場外では列ができていた。




「ヤァ!!」




平隊士の方は声を大きく張り上げて自分を昂らせている。一方芹沢さんは木刀を片手で持ち、構えようとしない。

しかし隙がないので平隊士の方は動けずにいた。




「あんたは何者なんだ」




そんな緊張状態で不意に声をかけられ先程まで芹沢さんが座っていた方を向けば、斎藤さんと沖田さん、それから藤堂さんが腰掛けていた。




「いつの間に....」




この静寂に合わせて気配を消してきたのだろう。この三人の強さを改めて実感する。




「芹沢さんの友人、なんて
僕なら一生かかっても無理だよ」




「俺....ビックリしたよ、芹沢さんと仲いいなんてさ!」




その言葉たちの中に含まれる少しの疑いの色。信頼を失ってしまったのだろうかと俯き、首を横に振る。




「私はただの甘味処に奉公する身です
芹沢さんとは昨日会ったばかりなんですよ」




「昨日今日で友人になれるの?
すごいねぇ、どんな手を使ったの」




どうしてそんな言い方をするのだろうか
確かに沖田さんや藤堂さん、それに斎藤さんが芹沢さんのことをよく思っていないのはわかる。

私も話を聞いて少し怖くなって....。
その怖さから救ってくれたのはこの三人だ。




でも、私はやっぱり。




「何もしていません
ただ、芹沢さんに会って良いお方だと思ったからこうして友人になりました」




フン、と鼻息荒くそう答えれば斎藤さんがため息混じりに笑う。

その時道場に凄まじい音が響いた。




バシン!




「うわあッ!」




芹沢さんの前に立っていた隊士は吹っ飛ばされ、気を失っていた。一体何があったんだと目を見張る。




「鍛えが足りん、次」




相手をあれほどまでにしたというのに芹沢さんに至っては息も切らしていない。
これが経験の差なのかと圧倒される。




「あんたが....脅されたのかと思った」




その声にまた視線を斎藤さんへと戻せば試合を見ていた。「私が芹沢さんに脅されていると?」と、返せばゆっくり頷く。




「脅されて友人になるって....どんな発想ですか」




斎藤さんはきっと天然だ。
甘味処に来る度に抜けたような発言をするのでもしやと思っていたが今日で確信を得る。




「....俺が知っているあの人は、そういう人だ....気に入った女を見つければ有無を言わさず捕まえる」




「今までそのようなことが?」




そう問えばまた斎藤さんはゆっくり頷く。




「そうですか....変な人」