「あの、芹沢さんやっぱり....」




「何を遠慮している、このくらい迷惑にならん」




芹沢さんに手を引かれ、私は何故か屯所内の道場にきていた。剣術の稽古をする神聖な場に私などが入っていいものなのか。

困り果てていたが芹沢さんに手を掴まれている以上大人しく従った。




「フン、真面目にやっているようだな」




芹沢さんが道場に足を踏み入れると纏う空気がビリビリとしたものに変わった。
それと同時に隊士たちが次々に挨拶をする。




「芹沢さんがここに来るなんて珍しいですね、何か変なものでも食べたんですか」




「総司、口を慎め」




「あ!芹沢さん!ちょっと聞きたいことが――!」




隊士の方たちの挨拶にまぎれて聞き覚えのある声に反応して私もひょっこり顔を出せば、隊士の方たちの顔が青ざめた。




「おい....なんだあの娘....」

「芹沢さんの女か....?」

「いや、それにしては若すぎるだろう」

「もしかして勝手に入ってきたのか?」

「それなら手なんか握らんだろう」




もしかして芹沢さんの娘かなどという話も聞こえてきて私はいたたまれなくなる。
どうしよう、と芹沢さんに視線を移せば片口が上がっていた。




――何がしたいんだこの方。




「伊勢?!なんでここに....」




藤堂さんは先程も会ったが沖田さんや斎藤さんと驚いたような顔をしている。
きっと私たちのことを勘違いしていることだろう。




「こいつは伊勢と申してな、甘味処の奉公娘だ」



次にどんな言葉が出てくるのか、隊士の方たちはゴクリとつばをのみこんだ。
私は居心地が悪く、視線をさまよわせる。




「わしの友人だ、くれぐれも手を出すな」




「「「友人?!」」」




芹沢さんの友人とはそんなに少ないものなのか、いやむしろその相手が私のような小娘だということに驚いているのか。

私はそのあと道場で、芹沢さんと小話を挟みつつ稽古をする見学していたのだが
好奇の目にさらされ続けた。




あまりに見られるので耐えられなくなり、帰ろうかと考え始めた時、数人の隊士の方々が恐る恐る近寄ってきた。

どうやら芹沢さんに用があるらしい。




「あの....筆頭」




「なんだ」




話しかけただけなのに、隊士の方たちに返されたのは一歩後ずさるほどの威圧感。

私に向けられていないと分かっていても肩がはねた。




「あの....ぜひ私の剣を見ていただきたいのですが....えっと....」




めったに出てこない筆頭局長。
恐れてはいても実力面では憧れていたりするのだろうか。
しかし話しかける声には諦めが混じっていた。




――芹沢さんの剣か....私も見てみたいな。




ふと思い立った私は芹沢さんの袖をチョイチョイと引く。ニッコリと微笑めば何かを察したのか睨まれる。

だが、ここで引くほど私の好奇心はいい子ではない。




「芹沢さんの腕、見てみたいです!」




これで私への視線も芹沢さんへと移るだろう、芹沢さんは渋々重い腰をあげて隊士の方から木刀を受け取った。